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土曜日の攫われた夜⑦

「………………てめぇ……っ」 「ダメだな、そんなナリしてそんな汚い言葉使ったら」  口端を釣り上げて笑うマサカドは俺が躊躇したのを見てブラウスの最後のボタンも引きちぎった。 「っわかったから!わかったからそこからどけよ!」  マサカドの下で最早声も出せず泣き出した女の子があまりにも哀れで、俺は後先考えずマサカドの要求を呑んだ。 「勇敢だね。話に聞いてた通り、素直で可愛くて、バカだ」  マサカドが女の子の上から体を退けて立ち上がる。  組み敷かれていた女の子はそのまま床の上で体を丸めて動かなくなった。いや、多分恐怖で動けなくなったんだろう。 「人のこと、さっきからバカバカ連呼しやがって」 「褒めてるんだよ、バカな子程可愛いって言葉知らないの?」 「黙ってろよ」  そう言ってにこやかに笑うマサカドは今度こそ俺の腕を掴んで引っ張り上げた。 「行こうか、君にピッタリの話があるんだ」 「言うこと聞くからこれ、解いて」 後ろ手に縛られた親指をマサカドに突きつける。 相手にされないかと思えた俺の頼みはあっさりと聞き入れられて、俺の親指を縛っていた結束バンドは男たちから投げてよこされたハサミで切られた。  自由になった手を確かめて俺は俺が着ていたコートを脱いだ。この地下室は真冬とは思えないほど暖かくはあるけれど、だからって女の子のこんな姿を見ているのは心苦しいと思ったからだ。  脱いだコートを体を丸めたままの女の子に掛けて、俺は改めてマサカドに向き直った。 「紳士だね、惚れそうだ」 茶化すように言うマサカドを睨みつける。 「うっせえ。連れて行くならさっさとしろよ」  これから何が起こるのかわからない。怖くない訳がない。実際俺の両手は小刻みに震えているし、なんならここから今すぐにだって逃げ出したい。  でもだからって、今し方のような暴力は見ていられない。  俺の精一杯の威嚇を肩を竦めて受け流し、マサカドは大きな腕を俺の首に回した。  手を拘束するものは無くなったけれど、相変わらず逃げられる気配は全くなく。俺はつい先ほど潜ったばかりの扉を再び潜り抜けた。  マサカドの手によって次に俺が連れてこられた場所はあの地下室から車で十分程の場所だった。  先ほどとは違い、見上げても上が見えないタワーマンション。こんな所になんで、と思う暇もなくエントランスを通りエレベーターに押し込まれる。  途中すれ違う人もなく、建物の中はシンと静まり返っていた。もしかしたら既にかなり遅い時間なのかもしれない。 「なぁ」 「あん?」 「俺の財布とケータイ、返してくれるんだろうな」 「あはは、気にするのそこ?いいよ、返してあげる」  エントランスに足を踏み込んだ時からマサカドの腕は俺から離れていたけれど、逃げ出すチャンスを見つけられなかった。地下室に足を踏み入れた時よりも深い恐怖が足元からじわじわと競り上がってくる。  グングン上へ上がって行く箱。モニターが映す数字が50で止まりゆっくり音も立てず扉が開く。  通路は静寂で満ちていた。 俺とマサカドの足音は通路に敷かれているカーペットが吸収して殆ど響かない。  不気味なほどの静けさの中、一つの扉の前に辿り着いてマサカドはポケットからカードキーを取り出して扉を開錠する。 「さ、入って」  マサカドが扉を押してマンションの扉をあけた。  ――――ガチャリ。  

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