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土曜日の攫われた夜 追跡 ①

***  ――――ガチャリ。  開けた扉の向こう側、視界に入ったのはコンクリートで四方を固めた寒々しい部屋だ。  天井に一つだけオレンジ色の光が灯っているが、それだけでは部屋の隅まで照らしきれていない。  その唯一の光の下にはテーブルがあって、椅子があって、そして椅子には三人の男が座っていたが、俺の姿を目に留めると張り詰めた沈黙が降りた。  時間にしてニ秒ほど。  どいつが叫んだかは知らないが、俺を指さした男が一番に俺に殴りかかってきたので容赦なく反撃をする。  鈍い音を立てて男の腹に食い込んだ足を払うと同時床に倒れて動かなくなった男を一瞥する。 「あーあ、一撃KOじゃん」 「っ誰だお前!」 「誰でもいい!取り敢えず見つかんのはやべぇ!」  最初の間延びした声は俺の後ろ、部屋の入り口に立つ緒方のものだ。  後半の声は倒れて動かなくなった男の仲間だ。 相手にするのが面倒な飛び道具や、殺傷能力の高い武器を持っていれば慎重さも変わるが俺を見ても大した構えもなくただ飛び込んできた男の態度を見れば、こいつらが、ただのガラの悪い連中が群れている程度である事は見てとれた。 「あーあーあー、やめときなよ。喧嘩で匠に敵うわけないんだから。痛い目見るだけだよ……」 「うるさい、緒方。黙って引っ込んでろ」  元から止めるつもりが毛ほどもなかった緒方はさっさと部屋の奥へと入って行く。  俺は男が繰り出してきた拳を体を斜めに傾けて避け、代わりに男の顔面を強打したあと、続けて襲ってきた男も同じように床に撃沈させた。 三人とも床に沈んだまま全く動かなくなったのを確認してまず最初に目についた机に歩み寄ると、そこには三人分のコップと食いかけの菓子袋、そしてトランプのカードと札束がいくつか散らばっていた。 「呑気に賭け事かよ」  ふいに足元、ズボンの裾を引かれる感触がありそちらを見下ろすと一番最後に殴りかかってきた男がしつこく手を伸ばしてきた。 「お前、……一体何者だっ、こんな事してただで済むとっがッ」  いつかどこかで聞き慣れた非常に陳腐なセリフを言い終える前に男の頭を踵で踏み抜く。想定より鈍い音が耳に届いたが、まぁ死にはしないだろう。 「緒方そっちは」 「ちょっとまずい」  どこか緊張感を纏った緒方の声に俺は目を細め、緒方の声がした方へと足を向ける。  向かった先、目に映ったのは子供が四人。  女児が三人と、男児が一人。  明らかに小学生低学年と見て取れる女児二人と男児一人は三人寄り添いながら頬に涙の跡を残したまま泣き疲れてぐったりとしている。  もう一人、一番年齢の高そうな子供は緒方が宥めている子供三人からも距離を取っている。三人とはまた別の感情を瞳に湛えて子供達を遠巻きに見ているがその感情の特定はできなかった。 「心配すんな、ちゃんと元の場所に返してやる」  一言だけ声をかけて、俺は他に何かないか周辺を見渡すが目当ては見つかる気配がない。 「あのさ、そのコート君のじゃないよね?」  不意に隣にいる緒方が一人距離を置く女児に尋ねた。  女児が膝を抱えて座っていた為すぐには気付かなかったがコートの下に着ている服は無惨に破かれていて、彼女の身に何が起きたのか察するには十分すぎた。百歩譲って転んだとしてもこうはならない。

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