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土曜日の攫われた夜 追跡 ②
俺と緒方の間で彷徨った視線は緒方で止まりゆっくりと首を縦に振る。それを見届けて俺は舌打って踵を返した。
さっき俺が踏みつけた男が目覚めるのはまだ先だろうと踏んで、一番最初に鳩尾を蹴り上げた男のもとへ向かう。
「匠、言っとくけど俺死んだ奴に治療する趣味はないからね」
「ぐっ」
部屋の出口付近でまだ伸びたままの男に近づいて、どうしたら起きるかと逡巡した後もう一度胴体を爪先で蹴る。短い苦鳴と共に男がゆっくりと目を開けた。
しゃがみ込んでその胸ぐらを掴み、目を合わす。
何が起きているのかわからない、といった風に目を白黒させる男を鼻で笑い飛ばす。
「なぁ、ここに可愛いガキいたろ?」
「……ぁ、可愛いガキ?」
「金髪碧眼のさ、ちっこいガキだよ。覚えてねぇ?」
「そんなん知らッガッ」
男が言い切る前に振り上げた拳で男の顔面を手加減なく殴打する。
「ミテクレは花丸なんだけど、中身がちょっと可愛くないガキ、……ホントに知らねぇ?」
「し、知らギャッ!!」
「匠!」
緒方が後ろで何かを騒いでいるが全く耳に入らなかった。
顔面を血まみれにして俺から逃げようとする男のズボンのポケットに、獲物の形が想像できる"柄"を見つけて俺はそれに手を伸ばした。腕を軽く振るとシュッと空気を割く男と共に銀色の刃が飛び出す。
オレンジ色の光を反射するそのナイフに男の青ざめた顔が映った。
「なぁ、本当に知らない?」
「お、俺は本当何……や、マサカド!マサカドが連れてったんだ!!!」
なおも知らないと言い張る男の耳にそっとナイフの刃を当てて手前に引く。意外とよく手入れの行き届いていたソレは男の耳に思いの外食い込んだ。
「っぁぁああ"あ!」
「マサカド?……おい、緒方」
「いや、聞いたことない。どこの家かもすぐには見当つかない。それより匠、もう十分遅いんだけど子供達の前だからそれ以上はやめろ」
言われて、そういえばそうだったと思い出す。
やれやれと、一旦ナイフを耳から外し、手首を振って血を払うとコンクリートの床に赤い点が音を立てて散った。慌てて耳を抑える男に俺はまだ話は終わってないとばかりに、ナイフの柄で男の側頭部を小突く。
「で、そのマサカドって奴はどこにあの子連れてったんだ?」
「わ、わからな……っいや、でも見当なら!!ここの近くにあいつがよく出入りしてるマンションがあってもしかしたらそこに!!」
あやふやな返答をする男に苛立ちが募ってナイフの柄を握る手に力が籠る。
もう後数箇所ぐらい死なないところを刺してやれば全部話すかもしれないと、ナイフの切先を下にして持ち直すと、それを見越していたのか子供の近くにいた緒方がいつのまにか側に来て、俺の肩を叩いて止めた。
「はいはい、匠。交代。お前は子供達を見てて」
「……」
「俺に任せて、大丈夫きちんと口を割らすから」
「なんなんだよ、お前、サツでもねーのにさぁ!!」
まだ血も止まらず痛みに叫ぶ男が匠を睨み上げて声を張り上げる。ナイフを緒方に渡して、俺は男を見下ろし淡々と告げる。目に嘲笑の光を宿らせたまま。
「 お前らを地獄に追いやる猟犬だよ 」
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