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土曜日の攫われた夜 追跡 ③
緒方が男たちから場所を聞き出して目的地を割り出している間、俺は子供の方へと再び近寄った。先ほどの事もあり俺を視界に収めるなり目に見えて怯える子供に肩を竦めて一定の距離を保ち壁に背を預け様子を伺う。
今夜、この地下室の子どものように拉致されて集められた子供はここだけではない。
少し前から計画されていた事であり、それを未然に防ぐ事が俺を始め緒方達の仕事だった。
殆どの拠点は、計画していた奴等の末端が担っていた事もあり、この地下室と同じように速攻無害化できたと連絡を受けていた。
今もまだ鎮圧に赴いているチームがいる筈だ。だが俺のスマートフォンに立て続けに送られてくる報告の中に、今最も気にしている子どもの事だけがいつまで経っても上がってこない。
深い深いため息を一つ吐く。
俺の態度に視界の端で大袈裟に体が跳ねたのは、三治のダッフルコートを着た女児だ。
「ひっ」
「……ちょっとごめん。何もしないからそのコート見せて」
目線を合わせるようにしゃがみ込んで、女児のコートに触れる。
「後ろのフード、そう。その中を見せてほしい」
フードの中を探ると指先に小さく硬いものが触れて、俺はそれをフードから外して目の前に晒した。
昼間三治がコートを脱いだ時に緒方が取り付けた小さな黒いチップだ。
ソレにはGPS機能の役割があった。
改めてそれを目視した事によって、コートの持ち主がミテクレ詐欺の子供だと確信すると先程よりもっと深いため息が零れた。
呆れ6割、諦観4割といったところか。
命綱なしの大冒険を好むのは、せめて絵本が好きな年齢で卒業して欲しいと思う。
肝心のあいつが、冒険を好む性格かどうかはこの際横に置いておくとして。
「……あの」
「…………このコート、貸してくれた子。元気してた?」
今日一番抜けた声音だろうな、と思いながらズレた質問をしてしまった。
攫われて、こんな所に突っ込まれているのに元気だった?なんてアホ丸出しすぎる俺の質問に女児は律儀に「助けてくれました」と一言だけ返した。
大体そんな所だろうと答えの予想はついていたが、俺はそれに頷き返す。
「本来ならあいつも助けられる側なんだよ、なんでこうなるかな、……あのバカ」
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