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土曜日の攫われた夜 追跡 ④

   三治が誰かに尾けられているのは気づいていた。 どこのどいつがあんなガキの尻を追いかけまわしているのかまでは分からなかったけれど、時期が時期なだけに”もしも”のルートを一つ増やす事を決めたのは誰でもない昼間の俺自身だ。 俺と一緒にいる時間が長ければ長い程、あの子が良くない風に染まってしまうからさっさと行動に移したという緒方に追い出された後の三治の行方はダッフルコートのフードに忍ばせたGPSで監視していた。 帰宅できたならそれでよし。 そうでなければ追跡の予定だった。 少なくとも他多数あった拠点候補を全て後回しにし、匠と緒方自身が真っ先にここに乗り込んだというのにこれでは気をまわした意味が全くない。  ……危険に晒すつもりがなかったと言えば嘘になる。  正直に言えば、数ある拠点を確実に一つ潰せる目安になると思ったから泳がす方向で舵を取った。  GPSをつけていたし真っ先に駆けつける計画だったから少し楽観していたのかもしれない。  だとしても、コートを脱いで本人だけが移動するハプニングはさすがに予定外もいいところだ。    だが、相手は子供で俺は大人で、なら責任を取るのは俺の役目でもある。  俺は善意なんて言葉は大嫌いだ。  親切も、信頼も、与えた分だけ返ってくるなんて世迷言だ。良心なんて嘘臭え。    他人の信用を得る事の意味なんてとうの昔に忘れたし、そもそも誰かから与えられたものが、俺にとって1となる事は今まで一度たりとも無かった。  俺の他人への関心は歳を取るごとに減る一方で、誰かのために何かする、なんてそんな考えはいっそ自分にとってマイナスだと言い切ってもいい。  ーーそれでも。  それでも、やっぱり綺麗なイキモノは美しさを覚える。  他人の為に無駄に頑張って、  他人の為に無為に心を痛めて、  他人の為に、その心に寄り添おうとする眩しい奴。    いくら俺が自他共に認める利己的な人間だとしても、あぁいう裏表ない素直な子供まで否定して良い道理はない。 「くそっ」    今更判断を後悔しても仕方がない。  取り返すと決めたからには、もう一度あの笑顔のままの彼を取り返さないと意味がない。   「ったく、無駄に男前なんだから。大人しく囚われのお姫様でもしときゃーいのによ………………緒方!!」    ガリガリと片手で頭を掻いて、緒方を呼ぶと待ってましたとばかりに緒方から即反応が返ってくる。 「はいはい、場所の特定ができたからそっにち送る。こいつらの言ってる事が正しければ絞られる場所は一つだけど、部屋の中連れ込まれてたら……少し手間かもしれない」 「分かった、なんとかする。俺は先に行く、お前はもしもの事があった時にここで待機。他の奴の手が空いたらその場所に回してくれ」 「了解。念の為だけどなんであの子だけ別なのか解ってないからね、判断ミス気をつけて」 「……あぁ」 「匠!」  地下室の扉から出ようとする俺に緒方がしつこく声をかける。 「んだよ」 「念押しだよ。死んだ奴の口を割らす事はできないからな。僕の可愛い標本には迎えてあげられるけど」 「俺の目に2度と触れねーなら大歓迎だわ、ソレ」  

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