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土曜日の奪われた夜 the point of no return③
タワーマンションのセキュリティは固い。
目的の部屋の扉をぶちぬくには、騙すか、壊すか、侵すか。
一芝居打つのは時間が惜しい。
壊すのは容易だが後始末が面倒臭い。
残るは一つ。
最善のルートは既に確立させた。
俺が最も取りたくない方法で、最も確実な方法。
正解の扉の前で最後の錠を外すための下拵えは緒方と別れた時から始まっている。
エントランスの鍵は俺がエレベーターに近寄ったのを見計らったかのように解除された。まるで最初から解っていたかのようにタイムラグなく道が整ってゆく。
こんな芸当普通に暮らしてきた人間には中々できる事じゃない。
エレベーターの中に設置された何もかも見透かしたような監視カメラを一瞥する。
目的の階に着くと、足音を消す上質なカーペットを踏み締めて扉の前まで不自由なくたどり着くことができた。
腕時計で時間を確認すると、それこそ指定された時間に数分の遅れもない。
次はこの、俺の目の前にある扉が開く。
五秒前
4…3…2…1
電子ロックが解除される音が鳴った。
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