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土曜日の記憶に刻まれる夜①
音を立てず滑り込んだ玄関は廊下と同じく静まり返っていた。
有り得る最悪を想定して可能な限り身を潜め玄関から続く廊下に進み、唯一光が溢れるリビングへ。
意外だったのは静けさ通り、本当に男が一人しか居なかった事だ。俺の目に入ったのはリビングの中央に備え付けられたテーブルとソファ。
男はソファのすぐ近くに立って何かを持っている。
その男の向こう側、誰かがソファに横になっているのが解った。
顔は見えないけれど、あの髪色は間違いなく三治だろう。
「こんな遅い時間まで、そんなガキ連れ回したらお巡りさんにしょっぴかれるぜ?」
「っ誰だ?!」
緒方辺りが聞いたら『昨日のお前はどうなんだ』と突っ込みが入りそうだが、同意かそうでないかは重要だろう。
あえて言い訳するなら、昨日に関しては未成年だったアイツが悪いとでも言っておこう。
「なんだあんた。……おかしいな、鍵かけてたよな。エントランスからどうやってここまで入ってきた?」
俺の声に驚いた男が、すぐに冷静を取り戻したので胸中で舌打つ。もっと取り乱してくれればやりやすいものを。
「企業秘密」
男が手の中のものを机の上に置く。
代わりにポケットから取り出したのはナイフだった。
ナイフの切先をぴたりと俺に向けた男が、切先と同じぐらい鋭い視線で俺を睨む。
俺は男の後ろのソファで横になっている三治を見た。
片方の腕だけソファから落ちているものの、寝ているだけだと言われればそうとも取れる。
しかし大きな声で話しているわけではないが、この静かな部屋の中なら充分端まで届きそうな声量のはずだ。
それなのに三治の反応は一切ない。
「お前、その子に何したの?」
「あぁこいつを取り返しに来たのか。……あんたこそどうやってここを知ったんだ?」
「質問を質問で返すなよ、マナーがなってねぇな。……こっちの質問に答えねーのに教えるわけないだろ」
「お引き取り願えねーかなぁ。見ての通り取り込み中なんだよ」
「無理な相談だな。第一、俺がここで引いたとしてアッチはアッチでもう片付いてるよ。お前がこんなところで遊んでる間にな」
アッチ、という言葉に怪訝な表情をしていた男が徐々に強張って、終に有りえない、と口にした。
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