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土曜日の記憶に刻まれる夜②

「冗談も程々に……」 「冗談で全部潰したなんて言わねーよ?」 「全部?!」 「いいね、そういう反応は嫌いじゃない」    間抜けな奴が、自分は間抜けでしたと気づくその阿呆みたいな面は見ていて愉快だ。   「クソが!!用意するのにどんだけ時間を掛けたと思ってんだ!」  俺から視線を外さないまま男はもう片方の手でスマートフォンを乱暴に操作する。 電話先の相手にいつまで経っても繋がらない事に、男は大きく舌打ちしてスマートフォンをポケットに捩じ込んだ。 男の注意はずっと俺にだけ向いていて、すぐ傍にいる三治に一向に向かないのは、三治が一人で立てる状態じゃないからかもしれない。  怪我をしているのか、気絶しているのか。  俺の立っている位置からでは、確認するにはまだ遠すぎる。 「お前、誰だ?」 「俺の顔がわかんないなら、お前相当下っ端だろ?」 なら、出しゃばんな。話にもならない、と揶揄する。 「ンだと……っ」 「教えてもらわなかったのか? 天塚には逆らうなって」 「あ……、天塚……っ?」 男の語尾に疑問符がついて、今度は俺が心中首を傾げる羽目になった。 態度には出さないけれど、いくら末端だとしても今回の事に関わっているなら顔は知らないとしても天塚の名前ぐらいは知っていないと可笑しい。 それとも、指示系統が一人歩きする程もう組織として形を成していないのか。  薄々気づいていた事だが、改めて崩壊の一途を辿っている事を思い知らされる。  去年の八月から、堰き止められた水が溢れるように。  全てを飲み込んで、濁流となり、壊していく。    別に血筋に思い入れなど一切ないし、さっさと断絶してしまえとまで思うぐらいだがこんな…………こんな、負の遺産をばら撒くだけばら撒いて、手当たり次第汚染していく途絶え方は最悪だ。  だからこそ、天塚に処理という名のお鉢が回って来たのだけれど。

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