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土曜日の記憶に刻まれる夜③
「……ほんと、胸糞悪りぃ……」
俺が吐き捨てるように呟くのと、男が急に態度を変えるのは同時だった。
「っ、待ってください!!はっ――」
耳を塞ぎたくなる程大きな破裂音と同時、何か言いかけた男が突然赤い筋を描いて後ろに倒れる。
「っ……?!」
振り返ると玄関口から誰かが出ていく後ろ姿だけが目に留まる。
咄嗟に追いかけようとリビングから足を踏み出した瞬間、俺の耳に届いたのは正面ではなく後ろ――リビングからの劈くような悲鳴だった。
「っ、くそ!!!!」
今追いかけたらエレベーター前で捕まえる事が出来るかもしれない。
けれどリビングから聞こえる泣き叫ぶ三治の声を無視して追うことは出来なかった。
一旦玄関の鍵を掛けて、踵を返し急いでリビングの中に戻る。
改めて近寄って見た光景は目を逸らしたくなる程壮絶で、俺は言葉を失った。
男は頭を撃ち抜かれていて、絶命していた。
倒れ込んだのが三治の上だったのだろう、三治自身頭から全身を真っ赤に染め上げて「いやだ、いやだ」と泣き叫んでいる。
男の体を床に倒して、落ち着かせようと頭を抱えて震える三治の名前を再三呼び続ける。
けれど俺が名前を呼んでも気付くことはなくて、いくら何でもおかしいと思った矢先にローテーブルの上に置かれているものに気がついた。
それは俺がこの部屋に入る直前まで男が持っていたものに違いない。
「この野郎……」
よく見たら三治は服をまともに着ていなかった。ここで何が行われようとしていたのか、もう確認する術はない。
濁った片目があらぬ方向を向く男を見下ろして舌打つ。
俺は寝室から毛布を一枚引っ張りだして、嫌がる三治をそれで包むとマンションを急いで後にした。
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