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土曜日の記憶に刻まれる夜④
「警察の方は手を回した。子供の方は事前に話してたからなんとかなるけど、マサカドの方はちょっとぐだるかも」
そう言ってパソコンのキーを叩くのは緒方だ。
マサカドのマンションを出てすぐに緒方に拾われ、そのまま俺の家まで帰ってきた。
マンションを出て家に着くまでの間、気が狂ったかのように泣き叫んで抵抗していた三治は今は布団の中でこんこんと眠り続けている。
血を洗い流すために風呂に入れた時も全く起きる気配が無かったので、それが疲労に寄るものかそれとも薬に寄るものなのか判断はつかないままだ。
「ミツハル君が打たれたかもしれない薬は君が持って帰って来てくれたから大体の分量は把握できるんだけど……」
ローテーブルの上にあったのは使いかけの注射器と、透明な液体が入った小指ほどの大きさの小瓶だった。
「合成麻薬の一種に、多分……、『A-f6』が混ざってる。…………薬を抜く努力はするよ」
「…………あぁ」
寝室に三治を包むための毛布を取りに行った時、もう一つ持ち帰ったものが視界の端でピカピカと光り続けている、持ち帰った時は充電が切れていた三治のスマートフォンだ。一緒に置かれていた財布に、ご丁寧に写真付きの学生証まで挟まれていたので持ち主がすぐに解った。
充電を始めてすぐに光り始めたのは着信履歴があるからだろう。
「……どうしたもんかね」
ありのままを、電話口で見ず知らずの男が語るには事態が重すぎる。
だからと言ってこれ以上放ったらかしは不味いだろう。
下手したら昨日からまともに連絡をとっていなくて既に捜索対象になっていてもおかしくはない。
そして、実際こんな有様だ。
「仮に履歴が保護者からだとして、申し訳ないけど今の状態のこの子を帰すわけには行かないし、勿論病院にも連れて行けない」
緒方はパソコンを叩く手を止めて、漸く俺と目を合わせた。
眼鏡の奥、硬い視線がふと緩んで困ったように笑った。
「そんな顔しなくても、努力するって言ったろ。僕が努力するって言ったら大概何とかなる」
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