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土曜日の記憶に刻まれる夜⑤

「そうだったな。……なぁ」 「何?」 「あのマンションの部屋の名義、調べついたか?」    俺の脳裏でマサカドを殺した顔どころか性別すらわからない奴の後ろ姿がチラつく。  後ろ姿といっても背中が見えたかどうかぐらいだ。  監視カメラに映っているかと期待をすれば、なんと非常階段を使って逃げたらしい。おかげで防犯ベルが鳴るわ、警察だけでなく、防犯ベルの音を聞きつけた隣人が消防車まで呼ぶわで大騒動だ。  いや、人が一人銃で撃たれて死んでいるのだから普通に考えても大事件な訳だが。 「行方不明になってる」 「は?」 「一週間ほど前から不在みたいで、連絡もつかない状態みたいだね。もっと詳しく調べてみる?」 「……いや、いい」  あんなあっさりと人を殺す奴だから、あのマンションの持ち主もそういう事なのだろう。 「そっちの子供は?」 「子供の方は問題ないよ。全員シロだ。問題があるとしたら誘拐した側だけど……何も知らなすぎて逆にどうしようもない」  片眉をあげて、お手上げだと肩を竦める。 「ただの誘拐事件として全員史人さんにプレゼントしといた」 「死んだマサカドも俺の事を知らなかった。……子供の件は本家からの案件だ。俺達はこれ以上勝手に動けないし動くつもりもない。けどマサカドが持ってた薬は警戒する必要がある」 「そうだね。出来るなら生きてる時に出所ぐらいは教えてもらいたかったところだけど。口封じかな」 「どうかな。あのタイミング、俺は気づいてなかったからあいつじゃなくて、俺を撃ち殺す事もできた筈だ。なんなら黙って一人逃げ出すこともできた。薬だってこうやってお前がある程度は調べることができるし」  マサカドが何か言いかけた気もするし、ただの悲鳴だったのかもしれない。前者なら口封じだが、マサカドが最後に何を言いかけたのかなんてもう思い出せない。   「仕方ないね、取り敢えず僕としては五体満足で君が帰って来たことに満足しておくよ」  そう言って緒方はまたパソコンに向き直って手を動かし始めた。  緒方の邪魔をしないよう、俺はそっとその場を後にした。  

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