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真夜中の 二人
部屋を後にすると長い廊下に出る。
天塚の家はこの土地に古くから根ざす旧家だ。
純和風の造りは厳かで、軒から見える庭園は春夏秋冬を感じられる美しい仕上がりとなっている。
今は三月なので少し離れたところに見事な梅が咲いているはずだ。
雪こそ降ってはいないが、廊下は身震いするほどの寒さで吐く息はどことなく白い。
緒方が使っている部屋の隣の障子に手をかけて開くと、すぐ中に入って静かに閉める。
廊下と異なり障子一枚隔てた中は暖かく、仄暗かった。
部屋の中央に敷かれた布団から少し離れた場所に背の低いフロアスタンドがささやかなオレンジ光を点している。
布団の中で規則正しい寝息を立てているのは三治だ。
そっと近くに寄って音を立てないようすぐ側に座り胡座をかく。
そのまま暫く眺めても、光治が起きる気配は全くない。
「……参ったな」
閉じた目元を縁取る長いまつ毛とふっくらとした幼い頬。色付いたら嘸かし魅力的だろう小ぶりな唇。
指先でなぞろうとして、起こすわけにはいかないと慌てて引っ込める。
昼間の出来事が、まるで何日も前の事のようにとても遠く感じる理由は、たった一つしかない。
「――――後悔なんて、する権利ねーのにな……」
***
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