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重ねた嘘とチョコラテ①
俺が社会復帰、もしくは年齢に則った日常生活、詰まるところ学校に通えるようになったのはあれから五日後の金曜日。
木曜の朝にはもう家に帰ってきていて、丸一日家でゆっくりした後学校に行った。
といっても、数日休んで学校に行ったところで俺は授業の進みに遅れる心配とか、そういうのとは無縁だ。
それよりも朝登校し、自分の席に座った瞬間般若のようなツラした友人に詰め寄られた方がよっぽど問題だった。
「おい、どういう事か説明できるんだろうな。」
短い髪をワックスでツンツンに逆立てた俺の幼馴染の悟が、今にも掴みかかってきそうな勢いで机に身を乗り出し俺を問い詰める。
悟の形相にクラスメイトも何事かと引いている。
「説明するから、放課後でいい?」
「逃げたら家まで押し掛けるからな」
「逃げないって、本当心配かけてごめん。それに悟には詩子ちゃんの件に関してもめっちゃ感謝してるから」
俺が詩子ちゃんの名前を口にすると、若干冷静さを取り戻した悟が机から体を離す。
丁度予鈴が鳴って悟は渋々自分の机へと戻っていった。
悟は春から一人暮らしするにあたり、俺にシェアハウスを持ちかけてきた友人だ。つまりおれが音信不通になって真っ先に迷惑と心配をこれ以上ないほどたっっぷりとかけた相手だ。
悟のあの様子からして、今日家に帰るのは遅くなりそうだなと覚悟する。
そして時は進んで放課後。
予想通り、俺は友人二人に机を囲まれて、まるで悪い事をして警察に取り調べを受ける犯人扱いだ。
一人増えているのはクラスが別の友人が、授業が終わってすぐ合流したから。
元は金髪に染めていた、伸びるにまかせたまま放ったらかしの根本が黒いプリン髪を後ろで一つに纏めている。
二人の俺を見る目がとことん突き刺さって痛い。
ひと昔前の刑事ドラマだと、犯人は白状するのと引き換えにかつ丼を食っていたらしい。
俺は刑事ドラマなんて見ないから、今もかつ丼が出るかどうかなんて知らないけれど、もし俺が犯人役で事情聴取されるなら何かしら与えてくれてもいいんじゃないか。
今にも噛みついてきそうな二人からの圧以外の何か。
「ここじゃなんだし、帰りにどっか寄らない?」
「あー、それもそうだな。言いたい事も聞きたい事も山ほどあり過ぎてパンクしそうだわ」
その悟のパンクしそうな内容、これから俺にぶつけるんだよな?
俺が引き攣った顔で笑うと隣で腕組みをしていた友人がはぁ、とこれ見よがしに大きな溜息を付いた。
「ここ数日、悟の不機嫌宥めてきたの俺なんだからな」
「うっ……」
「俺は不機嫌なんかじゃない」
「どこが。不機嫌丸出しで俺に当たり散らかしてただろーが」
「ごめん、本当にごめん、二人とも。ちゃんと説明するから、だから――」
喧嘩しないで、言おうとした矢先教室の扉が開いて、別クラスの女子生徒がきょろきょろと教室内を見渡し俺たちを見つけると「あ」と口を開いた。
「あのさー」
「んだよ、俺たち取込み中なんだけど」
「そんな事言われても、私だってお願いされてここに来ただけだし」
「お願い?どうしたの」
「校門ってたしかここから見えるよね。そこに男の人がいるんだけど」
その女子生徒の言葉に俺はいち早く椅子から立ち上がって、校門が見えるグラウンド側の窓に駆けつける。
校舎から一直線上にある校門付近にはちょっとした人集りが出来ていた。割合的に女が多めに見える。
さらによく目を凝らすとその生徒の輪には見慣れない姿の男が一人立っている。
遠過ぎて顔なんて見えたもんじゃないが、俺にはそれが誰であるかわかる気がした。
いや、気がするなんてもんじゃない。
遠近法が効いていても、人より無駄に背の高いスラリとした立ち姿。
あれは匠だ。
俺はザッと血の気が引いて窓辺から離れた。
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