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それは小学校以来の関係①
迷惑な奴らに絡まれて、匠に助けてもらった土曜日のお出かけの後。
俺はそのまま匠の家に泊まらせてもらって日曜の夜には自分の家にいた。
なんだか少しだけ詩子ちゃんと顔が合わせにくかったのに、家に帰ったらいつも通り「おかえり」と迎え入れられてもやもやした気持ちは霧散してしまった。
それから匠の家にお世話になる事に対して、詩子ちゃんからお行儀よくしてね、とかあんまり匠君を困らせちゃダメよ、とか。何度も言われて気付けばベッドの中で眠りに落ちていた。
月曜日は登校日だ。
卒業式まで間もない俺は登校しても卒業式のリハーサルぐらいしかやる事はない。
……なんて呑気に考えていられたのは教室の扉を潜るまで。
突き刺さるような二対の視線が俺の席から向けられる。
一人は俺の席に我が物顔で座っていて、もう一人はオレの机に腰を寄りかからせて立っている。
…………すっっっかり忘れてた。悟と三治だ。
「あー、おはよう」
「おう、ちょっとツラ貸せ」
「おはよう、悟それじゃガラが悪すぎる」
俺からしたら、どっちもどっちだ。
悟は思った事をすぐに口に出してくれるからまだいい。
けれど三治は違う。金曜日、俺を教室の窓辺から何も言わずに見送った三治は今何を考えているのだろう。
三治は俺とは違って頭の出来が違うから、時々考えてる事が分かりにくかったりする。
「SHR終わっても今日は卒業式のリハーサルだろ。練習なんてかったりーから抜けるなら今抜けよ」
「俺は別にいいけど、どこいく?」
そこに俺の意見を挟む余地はないらしい。
うーん、と悩んで三治と悟が出した結論は学校の屋上だった。
「寒いっ」
「さみー!」
「……本当にここで?」
時折吹き付ける冷たい風が学ランの上から滲みてくる。
通常、大概の学校がそうであるように俺たちの学校も屋上は鍵が掛かっていて生徒は立ち入り不可の場所だ。
なのに何故俺たちが入れたのかというと、悟が屋上の鍵を保管庫からくすねたからだ。
大人が管理する場所でも何の躊躇もなく器用に行動を移せる悟の神経は筋金入りだと毎回思わずにはいられない。
そのおかげで普通なら絶対に入ることのできない屋上に出る事ができるのだけれど。
「相変わらず眺めは最高だな」
「六割山だけど」
そう言って風を凌げる場所を探して移動し、コンクリートの上に座り込む。
背を預けた金網フェンスの向こう側の景色も寒々とした山々だ。
「さて、詩音さんよ。俺たちに言う事は」
俺の右隣に座った悟が口を開く。ついでに一限目の鐘が鳴った。
「二人共、迷惑かけてごめん!!」
悟には謝っても謝りきれないくらい心配も迷惑もかけたし、三治には約束を破ってなんなら本人の知らないところで名前も勝手に借りた。
謝ったところで何かしら言われるだろうと覚悟はしていたけれど、三治はうーんと言いにくそうに頬を掻いた。
「それはまぁ、もういいよ。俺はそんなに気にしてないし悟ももう気にしてないだろ?」
「まぁな。次同じ事したら躊躇しねーけど」
「うぅ、その節は大変お世話になりました……」
何度も思うが、悟が気を利かせてくれていなかったら詩子ちゃんにも沢山迷惑を掛けていただろうし、俺は三人と卒業式を迎えられたかどうかも怪しい。
「今はそうじゃなくてだな!いや、その事も詳しくは話してもらうが。あの男の事だよ。なんだよ、あの金曜日校門にいた奴!」
「金曜日、校門って……あぁ匠の事?」
名前を出すと悟の視線がきつくなって、三治の体が少し揺れた。
「何、名前で呼び合うような人?あんな人詩音の知人にいたっけ……?」
「え、いやっ違う。匠は俺を助けてくれ人で」
「助けてくれた人ねぇ、……やっぱり最初から丁寧に説明して貰おうかな」
俺の左に座る三治から有無を言わさない圧力を受けて、俺は乾きかけた喉を震わせた。なんだか二人とも異様に怖い。
「最初?最初……えっと……」
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