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それは小学校以来の関係②

  「…………って感じで、改めて悟には大変感謝しています。ので、怒るな、怒るなって!!!」  金曜の夜に悟と集合出来なかったのは体調が頗る悪かったからで、そこを通りかかった匠に助けてもらって。  すぐに悟に連絡を入れられなかったのは財布とケータイ一式落としてしまったからで、それはもうきちんと手元に返ってきたんだけど、と付け加える。  熱がひどくて、動く事もままならなかったんだと訴えれば二人は一旦納得してくれたように思えた。  本当は匠に助けてもらった事だけが真実で大半は俺の不注意が起因する事件一歩手前の出来事があったけれど、それは言わない約束を匠達とした。  俺もその方が皆に心配をかけないから有難い。 「じゃあさ、なんで大貫三治……っあはっ、……ふふ、ごめん。さすがにこの名前はないな。偽名使ったの?」  三治が俺に尋ねる。 「えっと……」  しまった。そっちの言い訳は考えてなかった。 「匠に最初信用が置けなかったから?」 右にいる悟がゴソリと動く。 「なに?変な事でも言われたの?最初信用に置けなくて偽名まで使ったのに詩音はあいつにホイホイ付いていったの??」  いつになくトゲのある言い方の三治に俺はタジタジだ。  本当は匠に会う前に変な人に会ったから、匠にも警戒心を抱いてしまったなんて今更言えない。  …………そういえば、あの人は何て名前だっけ?  聞いたような、聞かなかったような。第一印象は凄く優しそうで……、でも。 「おいっ!聞いてんのか」 「うはっ、ごめん、なんだっけ」 「お前、そんなんだから変な奴に付け込まれても気付けないんだぞ……!」 「お前それどういう意味だよ!!」 「まぁまぁ、悟。詩音、俺たち心配してるんだよ。小学校からの付き合いだしさ、まぁなんて言うの。こんな事言われるの嫌だろうけど、今回みたいな事があるとどうしても口を酸っぱくして言っておかないと」  悟と三治と俺は小学校一年からの付き合いだ。年数でいうと十年ものだ。でもこの街は少子化が進んでて小学校でさえ一学年ニクラスあればいい方で、顔馴染みと言う点ではクラスがずっと一緒だった奴は他にも結構いる。  それでも俺がこうして楽に話せるのは悟と三治の二人しかいない。  だからこそ、三治が敢えて言う事に俺は背筋を正して聞く体勢を作った。 「詩音は人より見た目が派手だから、その分変な人も寄ってきやすいんだよ。もっとそこを自覚しないと。今までだってたくさん苦労してきただろ?」 「俺は……っ」 三治の言う事は全く以って正しい。 正しい…が、俺は自分の見た目の話をされるとどうしても冷静でいられなくなる。  なんというか、…負い目を感じるというか。どうにかしたくても、こればっかりはどうにもできない。  詩子ちゃんは母親似のとても綺麗な髪だとか褒めてくれるけど、もし選べるなら父親に……詩子ちゃんに似たかった。  見た目が良い、とかそんなんは俺の人生においてハンデと同意義といっても過言ではない。 「俺たちが今迄どんだけ追っ払ってきたと思ってんだ」  頭に血が上りかけたのを見透かしたように悟が言う。 「頼んでない!」 「別に今更そんな事どうでもいいんだよ。悟も話を掘り返さないで」  俺と悟が言い合いになりそうになると三治が止めに入る。 「そんな事よりこれからの事。俺は卒業したら二人とは違う高校だし、悟だって一人暮らしするんだろ。詩音だけ電車じゃないか。正直詩音が今のままじゃ心配で仕方ない」  一方的に非難してくる悟とは違い、まるで自分の事のように心配してくれる三治に、俺は申し訳なくなる。  けれどこの話に至って漸く俺は二人にまだ話してない事を思い出して、後先考えずに"そういえば!"と口を開いた。  この重い空気を変えたかったって理由もある。 「その事なら問題ない!俺向こうで住む場所見つけたから」 「あ?」 「え?」  悟と三治の声が重なる。 「俺、匠の家に住まわせてもらえる事になったんだ」    俺はここにきて初めて二人に対して、自分の事はきちんと自分で面倒見れてるアピールをした。  高校からも近くなったし、勿論電車に乗る必要性もない。これで二人にかける心配も少なくなる。  そう思ったのにぐしゃりと顔を顰めた悟が俺を睨みつけた。 「お前、何言ってんだ?気でも触れたのか?」 「悟こそ何言ってんだよ、俺の言ってる意味わかんねーの?」 「意味はわかるわボケ。お前少し前まで匠って奴に名前を教えられなかったから偽名使ったって言ってたじゃねーか。なのにどこをどうすっ飛ばせば一緒に住む事になるんだよ」 「いや、それは……その、色々あって」 「色々ってなんだよ、少しはまともに筋の通った話しろや」 「なんだよ!!!悟なんか冷たくないか?!俺が何かしたのかよ!」 「冷たいとか冷たくないとかそういう問題じゃねえ、常識を語ってんだよ。信じらんねぇマジで」 「っ悟にそこまで言われる必要なくね?!」 いつも面倒を掛けている自覚はあるので、ある程度は二人の説教に耐えれても、今のは言い過ぎだとおもう。  頭に来て立ち上がったら、目についた開けっぱなしの屋上の扉に向かって駆け込んでいた。  

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