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A storm is brewing.①

電車から降りてこれから三年間はお世話になるであろう改札口を通り、手土産片手に俺は駅舎を出た。  今日は詩音が世話になっていると言う天塚っていう奴の家に詩音に会いに行くことになっていて、十時には駅で待ち合わせをしている。  詩音はドがつく程の方向音痴でその実力は折り紙つきだ。十年連れ添ってきた俺や三治にも詩音のソレばかりは手には負えない、マジモンの方向音痴。  時々方向音痴と地図が読めないのは違う、と口にする人もいるが詩音の場合はフルセット。  だから今回も住所を教えてくれたら、詩音にとってはまだ住み慣れない街に違いないだろうから、スマホのナビでなんとかすると言ったのに詩音は迎えに行くと言って譲らなかった。それでも渋った俺に対して「駅に行けないなら、高校にも行けないだろ。同じ方向なんだぞ」と言われれば無理矢理納得せざるを得ない。  ちなみにあいつの家から中学は歩いて十分ぐらいで、迷う分岐などない。……ないが、過去寄り道をした日、詩音が学校を遅刻した事を俺は知っている。  あれが小学校のいつの頃だったか、もう忘れてしまったけど。  辺りを見渡して、一目でわかる目立つ容姿を探す。人通りが多いので、平均より背の低い詩音は人の波に埋もれやすい。  目を凝らすと、丁度三人の男が壁に向かって何か話している様子が視界に入った。  あと、その三人の向こう側に見慣れた金髪と身長の、俺の探し人。   ――ほんっっとに、毎度毎度。これだから、一人で歩かせるのは嫌なんだ。    無意識に大きく吸い込んだ息を同じぐらい大きく吐き出して、俺はその三人組の元まで歩み寄った。 「すんません」  俺が三人組の一番外側の男に声をかけるとそいつが俺に振り返った。  俺は中学時代のクラスメイトに三治と詩音の三人の中で一番荒いと思われていたようだが、別に乱暴な訳ではないしなんならヘラヘラ笑って時々誰よりも腹黒い三治なんかよりよっぽど人当たりも人格もいいと自負している。  なので、人と交渉する時第一印象が大切だということも分かっているつもりだ。 「そいつ、俺のツレなんです。何か迷惑かけました?」    できるだけ丁寧に、波風を立てない様詩音を囲いから引っこ抜くために声をかける。 髪色の派手さを除外すれば体格的に大体俺と同じか高校生ぐらいぐらいだろうと検討を付けていた男は、振り向いて俺を見た瞬間に目に怯えを走らせた。 同じぐらいといえど、三人が三人とも俺より若干背が高い。そんな奴らに予想外の反応をされれば俺も次の言葉が引っ込んでしまう。   「ツレ?!良かった……っじゃあ後任せていい?!」 「は?」  今まで何十回も遭遇してきた展開と異なると流石に対応に困る。  いつもなら「お前はお呼びじゃねーよ」とか、「今話しかけんな」とか。俺こそお前らに用はねーんだよさっさと詩音から離れて失せろ!と波風もクソもなくなるのだが今日は違うらしい。  俺が声を掛けた男は何故か酷く慌てていて、その隣の少し離れた場所にいる男は手持ちの鞄の中を物色して俺に見向きもしない。  詩音に一番近い後ろ髪を赤く染めた男は詩音の顔を覗き込んでいて。  俺はそれを目にした瞬間、言ってることとやってる事が違うじゃねーか!と頭にきてその男の肩を掴んで詩音から引っぺがした。 「っ、う、わっ?!」 「おい、てめえ!詩音に何してやがる!」 「何してって……、いや、違う!俺じゃねーよ!」  お前じゃなかったら誰が詩音に一番ちけーんだよ、と胸中で突っ込んで詩音を引っ張り込もうとあいつの二の腕を掴む。  そこで俺は漸く男たちの態度と言いたい事が合致した。  俺はてっきり、詩音が絡んでくる奴等を遠ざけようと俯きがちになっているのかと思った。  けれど覗き込んだ詩音の表情は俺が今まで一度も見たことのない様な顔をしていた。

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