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風馬

 今日は珍しく悟要俺とでお昼だ。  三人とも購買で買ったパンと紙パックのジュースを手にぶら下げている。  天気が良いので場所は屋上。こういう日はすぐに生徒で埋まってしまうので、俺たちは隅っこの方で地べたに座って昼食を摂り始めた。  四月下旬、ゴールデンウィークはすぐ目の前だ。 「悟と要は何すんの?」 「俺は出稽古」 「お前連休でさえ部活かよ……」 「この高校、他校との交流が多いのも選んだ理由の一つだからな。家に帰る気にもなれねーし、帰ったら帰ったでぜってー親父が五月蝿い。それならこっちで部活してる方がマシ」 「それもそうか」  悟のお父さんは剣道の先生だ。実家周辺の子供が剣道を習うとしたら、それは悟のお父さんに教えてもらう事になる。悟が剣道を始めたのも勿論お父さんの影響ではあるが、お父さんに稽古を付けて貰うのは嫌らしい。 「要は?」 「俺はバイト」 「え?!要ってバイトしてんの?!どこで!!」 「どこって……ピザ屋だけど。なんでバイト如きにそんな食いつきがいいんだ?」 「俺もバイトしたいんだけど、いいの見つからなくて……」 「ふーん。それで?王子は何すんの?」 「特にないんだよなぁ」 「折角だから実家に帰って詩子ちゃんに顔見せてこれば?」 「それも考えたんだけど、詩子ちゃんとは毎日のようにSNSしてるんだよ」  ほれ、と俺のスマートフォンを悟に見せる。そこには「おはよう」「おやすみ」時々世間話のログで埋まっている。 「実際に顔見せるのとは別だと思うけど……。しかしお前ら本当に仲いいな」  俺、母親とそんな会話できねーわ。と悟が頬を引き攣らせて言う。 「匠達とも特に何も話してないし、今年のゴールデンウィークは引き篭もりかなぁ。あ、もしかしたら翔太と遊ぶかも!翔太も暇だって言ってたんだよな」 「近藤って結局学校来られそうなの?」 「それはわかんない。会う度に誘ってはいるんだけど、なんか吹っ切れないんだよなぁ……。そういえば要さ」  おん?とコロッケパンを口に頬張った要が俺を見た。 「風馬って人知ってる?」 「ふーは?」 「うん、少し前に翔太んち行った時に会った人なんだけど」  要の顔を正面から見て俺は風馬の名前を口に出しながら別の事も頭に蘇った。そうだ、俺の目の前でパンを頬張ってる要の事、翔太は好きだと言っていた。  勿論、恋愛的な意味で。 「お前なんで赤くなってんの」 「な、なってない!!どこみてんだバカ!」 「赤くなるとすぐ分かるんだよ俺に隠し事ができると思うなよバーカ。何?森の顔見てエッチな事でも思い出したか?」  お前、それはそれでどうなんだよ……。同級生で男で友達の友だち。そんな相手の顔を見てエッチな事って……。  俺が悟の言葉に呆れていると、要はパンをジュースで押し流して大きく咳払いをした。 「あのな……っ、人が口に物突っ込んでる時に好き勝手言うんじゃねぇ」  手で口を拭って要が顰めっ面を俺に向けた。 「で、なんだっけ。風馬?しらないな、聞いた事ない。そいつが翔太と何の関係あんの?」 「俺も詳しくは知んない。お母さんの連れてきた人、って翔太は言ってたけど。」  俺がそう聞いた事を口にすれば、要の目に若干剣呑な光が宿った。 「あぁ、あの人か……。翔太の母親は昔から結構遊ぶ人でさ。俺あいつんち行った時に男の人何回か見たことあるけど同じだったことあまりないな」 「そうなんだ」  じゃあ風馬も翔太からしたら母親が連れてきた他人な訳だ。でも赤の他人にあそこまで怯えるものだろうか。  なんだか腑に落ちず、俺は紙パックのストローを口に咥えたまま考え込む。 「どのみち家庭環境の話なら俺たちが出る幕じゃねーよ。余計なことすんなよ、詩音」  名指しで釘を刺されて俺は悟を見た。 「俺?!」 「お前以外誰がいるよ。悟は幼馴染だからまぁいいとして、お前は別にあいつの事よく知ってるわけじゃないだろ。変に顔突っ込んで拗れたらどうする」 「それはそうだけど……俺は翔太に学校に来てほしいだけなんだけどな」 「ありがとな、王子。俺もあいつに連絡は取ってるんだけど……既読無視がお家芸になりつつある」  そう言って俺に向けた要のスマートフォンに映る会話のログは一方的に流れている。いっそ可哀想だとすら思える見事な既読無視だ。 「……もう少しだけ聞いてみるよ」 「だーかーらー!程々にしろって言ってんだろ、お前俺の言ってること本当に理解できてる?!!」  隣から悟の指が伸びてきて俺の頬を抓ったまま上下に引っ張った。 「いっふぇえ!ばふぁ!やふぇろ!」 「やめて欲しいなら俺に心配をさせるな!かけるな!」  悟の手から必死に逃げてジンジンと痛みが残る頬を摩る。 「わかった、わかったから!!」 「お前ら本当に仲いいなぁ。大貫、王子の母親みたい」 「やめろ。俺はそんなガラじゃねぇよ。母親ならもっと適任が他にいるわ」 「え、誰??」  要が興味津々に突っ込んできたので、悟は三治の話をしはじめた。俺は痛む頬を押さえながら、この場にいない翔太の事を考えた。

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