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 ほかほかの肉うどんを一口すすって、やっと本日一回目の食事に舌鼓を打った。 「ん~~、うまぁ」  空腹は最高のスパイスと言うが、真実だったんだと噛みしめる。  たまらずもう一口、口に含んで、甘辛いスープで流し込む。  そんな人間の食事をまじまじと眺めながら、エヴァンは未だ申し訳無さそうにしていた。 「ね、そんな気にすること無いって。俺こうみえて身体丈夫だし、ほら初めてで過剰に身体が反応してただけで、二度目はそんなこと無いかもだし」 「いや、俺の加減次第ではあるんだが……覚えてる限りではまともに吸血したのは今回を除けば100年以上前で、それもたまたま事故で……だから、正直うまく加減できないんだ」  聴くところによると、吸血時に牙を挿し込んだとき一種の麻酔のような魔力が人体に流し込まれるらしい。その濃度によっては、今回の俺のように骨抜きになってしまうんだとか。 「え、てか100年前!? え、エヴァンっていくつなの?」  思ったよりも大きく取り上げられた昨夜の事件のニュースに、付近に立ち寄ることができなくなったエヴァンと俺。  彼の知るルブロ・リブラという店は、人間界に紛れてヴァンパイアに血液を提供する場所らしく。  しかし、日本に来たばかりらしいエヴァンは、あの歓楽街付近の1店舗の情報しかしらないという……。  つまりは明日の飯にも困る身の上らしい。  そこで、また俺の血を飲めばいいよと勧めているのだが、エヴァンは遠慮するばかりだった。 「……詳しくは覚えていないが550くらいじゃないか」 「え? えっと……」  550? 550歳!?  歴史のそんな得意な俺ではなかったが、おそらく日本の歴史で行くと戦国時代よりもまえ?  と、驚きを隠せないで眼の前のヴァンパイアをまじまじと見つめる。  どこからどう見ても2,30代のいい男だ。 「ぜんぜんみえないね?」 「そういう生き物なんだ、ヴァンパイアは」 「へ~、ちょっと羨ましいかも」  老いないって。  老いなければ死ぬことが身近になる恐怖も、見た目や身体の変化に戸惑ったりもきっとしない。 「そんないいものでもないさ」  俺の呑気な声とは裏腹に、エヴァンはまたあの寂しそうな空気を纏わせて深く息をついた。  うん百年も生きてるヴァンパイアに掛ける言葉は見つからなくて、俺はまたうどんを口に運んだ。 「一応まだ、手はなくもないから。それもだめだったら、また頼んでもいい、か?」  エヴァンは本当に申し訳無さそうに、少し掠れた声でそういった。 「うん、もちろんっ」  二つ返事で答えてしまって、ちょっと変かなとも思ったが、あとは黙ってうどんをもう一口。  また、血を飲んでもいい。  それはつまり、不慣れなエヴァンが魔力を調節できずに、また俺が淫らに発情してしまうかもしれないってこと。  そしたら律儀な彼は、またその手で、その唇で……。 「ありがとう、レオ」  低い声に名前を呼ばれて身体が熱くなる。  きっとヴァンパイアにとってはふつうのことなのかもしれない、人間とそういうことするのって。  でも、だけど……。  少しでも彼の目に特別に映ったらいいのに。  不純な欲望を押し込んで、不安そうなエヴァンに笑顔を向けてみせた。

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