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 途中だった電球の取り替えを済ませ、布団を外の物干しに干して、てきぱきと準備を進めて行った。  昼食を済ませ、午後。エヴァンの部屋に使っていなかったハンガーラックを運び、服の整理を手伝った。 「わぁ! おしゃれだねぇ、エヴァン」  自分では選ばないような落ち着いた雰囲気のネイビーのシャツを手にとって眺めた。  エヴァンの香水か、柔軟剤だろうか? 淡く香る心地良い香りに胸が一杯になった。 「気に入ったか?」 「うん、大人の男ってかんじ」  エヴァンは肩をすくめて小さく微笑む。あまり見せない笑顔に釘付けになってしまう。 「気に入ったなら譲ってもいい。大したものじゃないが」  エヴァンの何気ない一言についついはしゃいでしまう。 「え、いいの!」 「世話になるしな」  遠慮しなくちゃと思いつつも、エヴァンの服、正直めっちゃほしい。 「でもちょっと大きいかなぁ」  素直に貰っていいものか伺いつつ、シャツを身体にあてがってみせる。 「確かに肩幅広いか……ウエストも」  何気なくエヴァンの手が肩を撫でて、脇腹のあたりを撫で下ろされる。  なんでもない、ちょっとしたボディタッチなのに。  一瞬で昨日触れられた感覚を思い出して身体が熱くなった。  感じたこともないような強い快感。  エヴァンの大きな骨ばった手の感触。  この手が俺のを握って……。  目があうと、彼は気まずそうに手を離した。 「……まぁでも、大きすぎるわけじゃないし着たらいい」  エヴァンは、そう言ってまた服の整理に戻る。  少し触れ合っただけなのに一気にあられもない嬌声やキスの感触まで思い出してしまって、心臓がバクバクと高鳴った。 「う、うん、ありがとう」  顔を見れずにぎゅっと彼のだったシャツを抱きしめると深く落ち着いた香りが鼻腔を占めた。  荷物の整理も終わり、エヴァンはリビングのソファの上で本を読んでいた。  邪魔をしないように静かに庭に出て、干していた布団をそろそろ引き上げることにした。  午後になってだいぶ日差しが強くなり汗が滲んで来る。  縁側に敷布団を畳んで置き、掛け布団を取りに戻った。 「わ……っ!」  止めていた大ぶりの洗濯バサミを外したところで風が強くなり慌てて布団を掴んだ。  風に煽られてしばらく立ちすくんでいると、エヴァンがやってきた。 「あ、エヴァン……」  片側の布団の端を掴んで、合図されて、俺も反対側の端を掴んで握った。風が弱まった隙に物干し竿から外して縁側まで急いだ。  エヴァンは、日光の下でかなり眩しそうに目を細めていた。  昨日真っ赤に日焼けしたようになっていた姿を思い出して少し心配になる。 「日差しあたって大丈夫なの?」 「あぁ、少しくらいは」  あのときと違って涼しい顔をしていてほっと胸を撫で下ろす。 「よかった」  またあんなふうに辛そうになら、ないで……。  そして同時に、苦しんでいた彼に血を吸われたことを思い出して一気に顔が熱くなった。  何度も思い出して馬鹿みたいと思いつつも、ありえないくらい衝撃的で気持ちよかったから……。  ぎゅっと噛まれた首筋を手で抑える。  まだじんじんとするような錯覚さえ覚える。  ちらっとエヴァンを見上げると、彼の唇に目が行ってしまいかーっとのぼせそうなくらい熱くなった。 「damn it...」  エヴァンがぼそりと言って、俺の身体をぐいっと押した。 「わっ……!」  そのまま、ほかほかの布団の上に押し倒される。  押し倒された拍子に咄嗟に瞑った目を開くとすぐ近くに顔を寄せられていて、はっと息を飲んだ。  すぐ触れそうな距離に形の良い唇があり、身を任せるように体の力を抜いて目を閉じた。  どきどきと苦しいくらい高鳴る心臓の音がエヴァンにも聞こえてしまいそうだ。  しかしキスの代わりに聞こえてきたのは深い溜め息だった。  恐る恐る目を開けてみると、エヴァンはぎゅっと眉根を寄せて俺を見下ろしていた。 「……え、エヴァン?」 「You’re making it too easy...」  英語で言われた内容はとっさのことで理解できなかったが、なんとなく、その熱を帯びた視線に察してしまった。  心臓の音がうるさくてぎゅっとTシャツの胸のあたりを掴んだ。 「はぁ……悪い」  もう一度ため息をついてエヴァンが身体を離して、室内に戻っていった。  なに今の、なんで……。  混乱と同時に、どうせなら、あのまま……なんて想像が膨らんで落ち着くまでしばらくかかった。

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