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幕間 エヴァン漫画にハマる
いつのまに眠っていたのか、自室のベッドの上で目を覚ました。
確かシャワーのあとにエヴァンの過去の話を聞くことができて、抱き合って……。
一気にいろんな記憶が思い出され布団の中で悶えた。
魔力ってやつのせいで、なんか、気のせいじゃなければ「すきすき」言っていたような、そんな記憶さえあって。
あ、でもエヴァンのエヴァンはしっかり白人男性といったサイズ感で――
「起きたか?」
とんでもないタイミングでのご本人登場にベッドから転げ落ちそうになった。
いやむしろベッドの下にでも隠れたい。
「身体まだ疲れてるだろ」
布団を頭まで被ったままの俺をぽんぽんと撫でながら語りかけるエヴァンの声が優しくて、むくっと布団から頭を出してみた。
表情も幾分かいつもより柔らかくて、ついついうっとりと見入ってしまう。
「まだ、ちょっとぼーっとする」
エヴァンの手が伸びてきて頭をくしゃっと撫でられる。
おっきな手に触れられるのが心地よくてしばらくそのまま目を閉じてされるがままになっていた。
すると、ふとおでこに柔らかいものが当たった。
「ちゅっ」
っとそんな音もして、目を開けるとエヴァンの顔が離れていく。
なにも返せずにいるとふっとエヴァンが微笑んで、その表情に心を鷲掴みにされる。
こんな幸せいっぱい甘々展開なんて……まだ夢でも見ているのかもしれない。いや、きっとそうだ。
と、また布団に潜り込もうとするのを制される。
布団を掴む手に彼のひやりと冷たい手が触れて、その感触があまりにもリアルで、夢じゃないと思わざるを得なくなる。
「な、なに……」
どんな顔をしたらいいのかわからずに様子を伺うと、ちらちらと手に持つ漫画を見せてきた。
陰陽師のキャラクターが表紙の『クロノ陰陽師』通称クロオンだ。
「ん、どこか読みにくかった?」
たしか5巻くらいまでは読んでるのをみていたのだが、彼が手にしているのは14巻。
「あれ? もうそんなに読んだの!」
「あぁ、コウの動向が気になって」
エヴァンはきらきらと目を輝かせていた。
どうやら漫画の話をしたいようだ。
コウ……煌というのは、クロオンに出てくる主人公蓮のライバルであり敵になる陰陽師キャラだ。黒髪に青い目の主人公と対を為すように、銀髪の長髪に赤い瞳、さらには自信たっぷりの表情で見た目人気も高いキャラだ。
「『力を求める者は、いつかその代償を支払うことになる。俺はその覚悟を持っている』でしょ」
登場時の決め台詞をかっこつけながら言ってみると、エヴァンはまた笑顔になる。
「よく覚えてるな」
「もう何周してるかわかんないもん」
言いながら煌の活躍を思い起こす。
初登場は蓮が父の最期を知り打ちひしがれる中、追い打ちを掛けるように突如現れ「お前を倒す」などと唐突に語りかける。実力も申し分なく、蓮が求めている時空を移動できる能力も既に持っているなどかなり強力な陰陽師だ。
「14巻ってことは、あれみたー? 蓮の修行中に煌が出てきてさ」
「妖怪を一撃で倒すシーンか」
「そうそう! あそこめっちゃ悔しくなって、最初読んだときすっごい落ち込んだなぁ」
まさかエヴァンとこうして漫画談義できるとはと、内心キャッキャしつつ彼の手から漫画を取ってぱらぱらと開いた。狭いシングルベッドで隣に横になってエヴァンもページを覗く。
「あー、平安編終わりのあたりか」
「このあたりの戦闘シーンが気に入ってる」
「めっちゃわかる! 迫力がやばいよね。ファンの間でも画力この時期から一気に良くなるよねって」
「そうなのか。神楽の式神の表現が美しいし、蓮の――」
どのくらい話し込んだのだろう。
話題が途切れず、別の巻のこのシーンがとか、ここはこういう意図だろうとか話し込んであっという間に時間が過ぎていった。
「いやぁ、エヴァンが話の分かるヴァンパイアでよかった」
冗談めかして言うと、エヴァンは微笑んで「レオこそ」と続けた。
「そうだ、アニメもね評判いいんだよ! あとね実写映画もそろそろ公開で、よかったら一緒に見に行こう?」
「みたい。いく」
エヴァンの瞳がきらきらと輝く。
「やった、約束ね!」
満足感いっぱいに微笑み合う。
寂しそうで暗い表情の多い彼がこうして笑ってくれるのが本当に嬉しくて。
その笑顔にまたこっちまで笑顔になってしまう。
あの時、口走ってしまった「ずっとここに」って言葉、軽率すぎるけど心の底から思っているんだ。
「ふぁ……」
一通り話し終えて満足感にまた眠気が襲ってきた。
血こそそんなに吸われなかったものの、一日動きまくってめちゃくちゃにイかされて……そりゃ疲れてるよな。
明日からまた仕事が始まって日常が戻って来る。
エヴァンとずっと今日のように過ごせたらいいなって思う。
「眠くなってきたか?」
布団に潜り直してエヴァンを見上げているとそう優しく囁く声。
「うん、ちょっと」
頬にひやりとした手が触れて撫でられる。
心地よくて更に眠くなる。
幸せすぎて今日が終わらなければいいのにって、この時間が永遠に続けばいいのにってぼんやり考えていた。
「おやすみ」
優しく響く彼の低い声にうっとりしながら、そのまま眠りについた。
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