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 さんさんと太陽も輝き暑さが身にしみるけれど、お出かけするのにはもってこいの天気だった。社会人の貴重な休日もあと半日だ。 「……今日は買い物行く?」 「いや」 「ずっとお家籠もってたら良くないよ」  安全面からも出歩かないことは仕方ないと思っていたが、ロスの話では、ここの近所での事件は無いらしい。それなら少しくらい外に出て身体を動かして欲しい気持ちもある。  エヴァンは、もう一週間近く家にいて本やパソコンに張り付いているし。 「お散歩とか行かない?」 「日の下は苦手だ」 「そうだよね」 「俺のことばかり気にしなくていい」  エヴァンはきっぱりと言って雑誌を捲る。 「いくらヴァンパイアでも、もうちょっと動かないと」 「お節介」  雑誌に顔を向けたまま言われる。  雑誌……本……。 「あー駅前の本屋さんけっこうおっきいんだよなぁ」  ぴくりとエヴァンの手がとまる。 「漫画も他の本も種類多いし……」  エヴァンは雑誌を閉じて置くとこちらを振り向いた。  そしてぐいと顔を寄せてきて、そのまま押し倒される。 「?? エヴァン、さん?」 「構ってほしいなら、そう言えばいいだろ」  手を取られちゅっとキスされて。 「や、そういんじゃなくて! ただ、エヴァンがあんまりにも引きこもってるから、心配で」  さらさらと風になびいてエヴァンの黒髪がきれいで、思わず見惚れる。 「ふぅん?」  指先にもう一度キスされてエヴァンの頬に当てられる。  甘えるような仕草にどきどきしてしまう。 「……ヴァンパイアはわかんないけど、人間はほら籠もったり、運動不足だと気分落ち込んだりとかって言うから」 「なんで……なんで俺のことばっかり気にしてるんだ?」 「え?」  まっすぐと見つめられて胸が締め付けられる。  なんでエヴァンのことばっかり?  顔が熱くなる。  そんな俺の反応に満足そうに微笑んで。 「も、もう……」 「誘ってるのか?」 「そんなことしてない!」 「こんなかわいい表情して?」  意地悪く笑う顔が綺麗すぎて、低く囁く声もたまらなくてぱっと顔をそらした。  時々出てくるこの意地悪エヴァン、全然慣れないな。 「レオ」  更に耳元で追い打ちを掛けられる。  いい声で呼ばれるだけでちょっとだけ変な気分になってくる。まだ真っ昼間だって言うのに。 「好きなんだろ? こういうこと」  優しい声で囁かれて首筋に唇が触れる。  甘い記憶が蘇り身体が火照りだす。 「好きっていうか、その、好きだけど……エヴァンだからで」  照れてしまってだんだんと言葉を濁してしまう。 「よく聞こえなかった」  こんな近くで聞こえてないわけ無いのに。 「い、意地悪しないで……っ、もう」  頬に当てがわれていた手を離してぎゅっと押しやって、睨もうとすると、その表情が見たこと無いくらいに緩んでいて。 「俺だからいい?」  愛おしそうに目を細めて見下されて心臓が止まるかと思った。 「それとも癖になった?」  さっきよりもゆっくりと確かめるように首筋に口づけられる。 「……っ! そんなんじゃ……」  言いながらも期待してる自分がいる。 「ふふ、耳まで真っ赤」  とろけそうになるくらい優しい声で、ドキドキが治まらない。  一方で身体だけの関係にはしたくない気持ちもあって、なんとか言葉を絞り出す。 「……エヴァンとぶつかったの覚えてる?」 「ぶつかる?」 「初めて会ったとき、逃げてるエヴァンとぶつかったんだけど」  あの夜、その艷やかな黒髪や深い海のようにミステリアスな瞳、陰りのあるような表情に、目を奪われ心惹かれた。 「……その時に、その、一目惚れして追いかけて、気付いたら体が動いて助けに行ってて」  こうして近くで見つめると、その瞳に吸い込まれそうだ。 「お前なら好きな相手じゃなくても放っておけないだろう? お節介、だし」 「あ、そ、そうかもだけど……」  精一杯言葉にして見るが、エヴァンはただそう言って俺の髪を撫でた。 「エヴァンのこと、好きだよ」  どうやったらうまく伝わるのかわからなくて、はっきりとそう口にしてみる。 「……俺に勘違いさせられて、利用されてるだけだ」  エヴァンはぎゅっと眉根を寄せて言い、肩口に顔を近づけた。  そして首筋に牙を立てた。  肌が裂ける感覚と同時に一気に熱が押し寄せる。 「あ、だめ、こんなとこでっ」  縁側の上に押し倒されていて思いっきり外だった。  しかし言うのも聞かずに吸い付かれ吸血される。  この前よりずっと熱は落ち着いているが、それでも心地よくて声が出そうになるのを必死で堪えた。  濡れた舌で舐め上げられちゅうちゅうと吸い付かれるだけで、身体が震えてしまうほど気持ちいい。 「だめ、エヴァ……声我慢できな、ぁっ」  両手で口を抑えてなんとか声を押し殺す。  エヴァンはその言葉を聞いてるのか聞いていないのか、脇腹や腰を撫でてくる。  吸い付かれる首元がじんじんと痺れ、身体が熱い。 「ふ、んんっ……っ!!」  身体を弄っていた手が下半身に触れてびくりと身体が跳ねる。  直接的な刺激に、魔力で敏感になった身体はすぐに硬く芯を持ってしまう。  ふるふると首を振って抵抗するのも遅く、ズボンの中に手が滑り込み直に触れられる。  ちゅっちゅと首筋にキスを落とされ、裏筋を親指で撫でられると、快感で頭が真っ白になってしまう。 「あっ、んぅ……はぁっ」  のけぞって甘い刺激に耐える。  今日は前ほど脱力感もなく身体が動くけど、声を抑えるのに必死で……。  庭は眩しいほどに太陽が照りつけ、風が肌を撫でてくる。開放感があるこんな場所でこんな行為をしてるという背徳感に余計に興奮させられた。  エヴァンの優しい手つきに徐々に限界が近づいてくる。  先走りで濡れた音が響き、日にさらされた素肌は汗が滲んできていた。  あぁ、もうイかされちゃうっ……。  と、顔を背けて快感に耐えていると、ふと庭先に人が立っているのが見えた。ジャケットとビジネスバッグを小脇に抱えて、気まずそうにネクタイを緩めている。  その彼のメガネの奥の瞳と目が合い、にこりと微笑まれる。  え、うそ。 「エヴァンっ、あっ……ちょっとまって!」  慌てて身じろいで止めようとするも、余計に手の動きが激しくなる。 「あぁっ、だめ! すとっぷ……んんんっ!」  そのまま唇を塞がれて、深い口付けも加えられる。甘く舌を絡めて吸い上げながら、搾り取るように扱かれ、容赦なくイかされてしまった。  人前で。 「はぁ……はぁ……」  荒く息を吐きながら呆然としていると、あろうことかエヴァンが俺の出した体液でどろどろに濡れた指先を舐めて見せて、羞恥に耐えられず涙が滲んでくる。 「ばかぁ……」  真っ赤になって睨みつけるもふっと笑われる。 「……で、お前は? なにか用か?」  快感の余韻と羞恥でいっぱいいっぱいの俺をよそにエヴァンは冷静な声で庭先の男に声をかけた。  どうやらこのヴァンパイア気付いてたらしい。  気付いてて続けたのかよ、ばか……。 「いやぁ、邪魔するつもりは無かったんだ、すまない。はじめまして、エヴァン・ホーク卿。私はヴィンセント・コンティ」  まだじんわりと残る身体の火照りにぼんやりとしながら会話を聞いていた。 「ヴィンセント?」  エヴァンが身体を起こして怪訝そうな顔をする。 「本物なのか?」 「疑うのも仕方ないね。特別に見せるよ、例の本を」  足音がしてヴィンセントと名乗る男が近づいてくる。  身構えるエヴァンにヴィンセントはビジネスバッグの中から本を取り出してみせた。  ぼやける視界の中にも、その皮や金属で装飾された古めかしい装丁が見えた。いかにもな見た目だ。  その後も何言か会話をしているのを聞き流しつつ、俺の方はまだ魔力が抜けきって無い未だに芯をもつ身体を持て余し、なんとかエヴァンの下から這い出ようと身体をもぞもぞと動かした。 「ふふ、話は後でゆっくりしよう。ほら、まだ彼つらそうだよ」  ヴィンセントの声がして、エヴァンが俺の上からどいたかと思うと、ふわっと身体が持ち上がる。  今までの吸血時よりはマシだけれど、酔いが回ったみたいに意識がふわふわしていた。 「大丈夫か、レオ」  そのまま抱きかかえて運ばれて洗面所まで来ると、床に降ろされて汚れた下着とズボンを脱がされた。 「だ、大丈夫だから……て、わっ」  身体を抱えられ洗面台の端に降ろされると、その冷たさに思わず声が出た。  エヴァンは形を確かめるように、俺の再び固くなって露を零す屹立に触れた。 「ね、お客さんきてるし……ひ、ひとりでするから……」  その手を制すると、エヴァンはまたあの優しい微笑みを浮かべて息を飲んだ。  なんでこの人はこんなにかっこいいんだろう。  ぼーっと見惚れていると、あろうことかその顔が俺のいきり立ったそこに近付いていく。  慌てて隠すように手で覆うとその手を取られ両手を握られてしまった。 「だ、だめ! 汚いから、ね……あぁっ!」  止めるのも聞かずに、精液と先走りで濡れそぼった先端に彼の舌が触れた。  ぺろぺろと舐められて、咥えられて、否応なく興奮を高められる。 「はぁ、あっ……えゔぁ、……んぅっ!」  両手を制されて声を抑えられない。  あのエヴァンに口淫されている光景に興奮を抑えられない。  根本まで深く咥え込み、先端まで吸い上げられ、また奥まで……。  生ぬるい腔内や舌の感触に刺激され、吸い付かれすぐにでも果ててしまいそうだった。 「あっ、ぁ……っ、も、やばい」  深く咥えられ、喉奥にぎゅっと締め付けられる感覚に抑えきれないくらい快感が深まる。 「イっちゃう……エヴァン、くち、はなして……あっ、むり、も……――っ!」  そのまま、堪えきれずにエヴァンの口の中で果ててしまった。  うっとりと熱っぽい視線で見上げられ堪らなくなる。  この間みたいな強烈な快感は無いけれど、このぽわぽわといい気持ちで酔いながらしてるような感覚も堪らなく気持ちいい。  それにエヴァンを近くに感じられるような気もして。 「ん……ごくっ」  ごく?  イった直後でぼんやりと快感に浸っているとそんな何かか飲み込んだような音がする。  見ると俺のから口を離したエヴァンが口を拭っていた。 「え、ちょ……」  妖しく微笑んで見せるエヴァン。 「少しは落ち着いたか? それとも」 「普通に話しださないでよ! 飲んじゃったの?」 「? あぁ」 「~~っ! ばかぁ……!」  このヴァンパイア、思っていたより変態だ。

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