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それからしばらくしてやっと落ち着いて、軽くシャワーを浴び、いそいそと部屋に戻って着替えを済ませた。
魔力が回って意識がぼんやりしていたとはいえ、来客ほっぽってなんてことをしてしまったんだろう。
羞恥に耐えながら麦茶を入れて、リビングにいる二人のもとに行った。
「もう平気か?」
エヴァンが口の端をあげてにやけながら聞いてくる。
「う、うん」
むっとしてみせるとくすりと笑って、まったく悪びれてない。
元はと言えばエヴァンがからかってきたからこんなことに……。
内心もやもやしつつ、麦茶をヴィンセントの前に置いた。
「すいません、お恥ずかしいところを……」
「気にしないで。僕の方こそお邪魔してしまって。ヴィンセントです、お名前聞いても?」
ヴィンセントは爽やかに微笑んで手を差し出した。
こうしてすぐ近くで見ると彼も実にいい男だった。年は30代後半くらいだろうか、柔らかそうな茶髪を掻き上げてセットしていて、シルバーフレームの眼鏡の奥、優しそうなタレ目は涼し気な緑色で綺麗だ。甘いマスクに整えられた顎髭が男性らしい色気を足している。
差し出された手を握り返す。大きなその手はエヴァンのようにひんやりとしていた。
「渡辺玲央です。はじめまして」
「レオ、いい名前だね。よろしく」
ソファに座る二人の向かいに腰を下ろして、麦茶を一口飲んだ。
冷静になるとイケメン外国人が我が家に並んでいるのはなんとも不思議な光景だった。
どうやら、昼間ロスと話し、どこにいるんだろうと話題になっていたヴィンセント本人がわざわざ我が家を尋ねてきたようで、早速二人は話に花を咲かせていた。
「そう、それでこれはかなり古い時期の文字だろう? 私はもうすこし後期の文献ならよく読んでいたんだけど、これじゃあ翻訳するだけでもかなり時間を労するだろうと思って」
「俺も専門ではないが、過去に何度か翻訳したことあるから力になれるだろう」
「さすがホーク公、博識の噂はよく耳にしていたんだ」
「噂は尾鰭がつくものだ。ただ好きで調べていただけで、君ほど専門的な知識はない」
エヴァンもいつになく目を輝かせながら古い革張りの本を眺めていた。
「……資料になりそうな本があったはず、少し待っててくれ」
エヴァンが席を立ち、ヴィンセントと二人、取り残された。
手持ち無沙汰なヴィンセントの視線が俺に向けられる。
「ふんふん」
値踏みされるような視線に居心地が悪い。
「な、なんですか」
「いやー、エヴァン卿のタイプは君みたいな感じかってね」
「え?」
「昼間から随分楽しそうだったし、そういう仲かと思ってたんだけど違うの?」
随分はっきりと言われて顔が熱くなった。
「そ、そういうんじゃ、ないです……」
まだ……。
俺としてはそうならなぁと思うけれど、エヴァンの真意は謎だ。
ただただからかって遊ばれてるような気もするし……。
「そう、なら今度僕とも遊んでくれる?」
「え、ええ!?」
悩んでいるところに、さらなる爆弾発言が投下されて理解が追いつかない。
困惑している俺の横にやってくるとずいと身体を寄せられた。
ふわりとセクシーな香水が香る。
「ふふ、可愛い反応」
うっとりと見つめられ、前髪を長い指先で梳かれる。
エヴァンを好きな気持ちは嘘では無いのだけど、こうも整った顔立ちの男――しかも大人っぽい色気がかなりタイプ――に迫られるとだめだとおもいつつも悪い気もしなくて……。
「何してる」
エヴァンの声がして慌てて押し返そうとするも一足遅く、頬に柔らかな感触がした。
ちゅっとリップ音がしてヴィンセントの顔が離れていく。
「ごあいさつを♡」
色っぽくウインクされて、羞恥と驚きで困惑させられた。
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