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◆エヴァン 「じゃあごちそうさまでした! また来ますね!」  2時間程飲んで、グレイマルキンを後にした。  外に出ると夜でも熱の残る外気が肌を撫でた。 「おっと」  一緒に歩きだして数歩でふらりとレオがもたれかかってきた。 「ごめん」  目元が潤んで、頬が少し赤くなっているのが店の明かりで見て取れる。 「大丈夫か?」 「おいしくてちょっと飲みすぎちゃったかも」  ふにゃりと微笑む顔がいつもより数段子どもっぽく見えた。  ふらふらと歩き出す彼の腕を取って引き寄せた。そのまま俺の身体にもたれさせ、手を彼の脇に通して身体を安定させた。  そうして支えながらゆっくりと歩き出した。  夜風が火照った身体に心地良い。  家に籠もっているのに慣れてしまっていたが、たまには外に出るのも悪くないかと、ぼんやりと思った。  暫く歩いて橋を渡っている時、レオが「ふふっ」と笑い声を漏らした。 「どうした?」 「んーん。ただなんとなく幸せだなって」  ぎゅっと俺の胸に身を寄せてレオは言う。 「エヴァンとデートできるなんて思っても見なかったし、たくさんお話できて楽しかったなーって」  砕けた微笑みや心底嬉しそうな声色に心が満たされていく。 「なら、また行こう」   ずっと避け続けていた人との関わりを、こうして自分から求めに行くとは思わなかった。  腕の中の温もりや心が満たされるこの感覚がくすぐったい。  長い間、こんな感情や感覚があることすら忘れていた気がする。  レオは嬉しそうに目を見開いて、にこりとつむって見せる。 「うんっ!」  屈託のない満面の笑みに思わずキスしたくなった。  こいつと居るといつもそうだ。  ふとした瞬間に触れたくなる。  思考すること無く身体が突き動かされる。 「ん……ふ、ぅ」  されるがままに唇を重ねるレオの従順さに悪戯心がくすぐられる。  口を離すと熱っぽい瞳に見上げられた。  かわいらしくて堪らなくなる。  俺のほうが熱情に絆されるから、そんな風に見ないで欲しい。    ゆっくりと歩き、レオの家についた。 「エヴァン、……」  レオをベッドまで運んで横たわらせる。  ぼーっとして油断たっぷりの表情を見下ろすと、手が伸びてきて引き寄せられ唇が重なった。 「ふ、んぅ……」  触れるだけのキスに満足したようにレオはふにゃりと微笑む。  この笑顔に弱い。  だめだと思いながらも触れたくなる。  そっと彼の服の中に手を忍ばせると火照った身体がびくりと跳ねた。 「あ、エヴァ……ん」  甘ったるい声に脳みそを揺さぶられるようだ。  反応を伺いながら唇を喰むようにキスを落とした。  全く嫌がる様子もなく素直に受け入れられる。  どちらともなく舌を絡めて深く口付ける。  じんじんと身体が熱を持ち始めた。 「ふぁ、は……きもち……」  キスと酒でぼーっとしたレオがつぶやきながら腕を回して引き寄せてくる。  覆いかぶさるようにしてそのままベッドの上でレオに馬乗りになった。  どうせならこのまま……もっと。  急く気持ちを鎮めながら首筋にキスを落とし、ゆっくりと触れ合う。 「んぅ、ん……ふふ」  くすぐったそうに笑って擦り寄ってくるのがたまらなくて、服を捲りあげて脇腹や胸元を撫でる。 「ん……ふ」  そしてもう一度唇にキスを落とそうとすると、彼は静かに寝息を立てていた。 「はぁ……」  中途半端に身体が火照っていた。  首筋にキスをして僅かな刺激に起きないかとも思ったが、その気配もなく、レオの腕の中、お預けをくらってしまった。  流石に寝込みを襲うわけにもいかず、腕の中から出ようとするが思ったよりもがっちりと掴まれていて、仕方なくそのままベッドに横たわってレオを抱きしめた。  温かい体温も伝わってくる規則的な心音も寝息も心地良い。  心安らぐ。  こんな気分になったのはいつぶりだろう。  むしろこんな気分になったことがあっただろうか。  おそらく人間だった時はあったとは思うけれど、まるで初めての感覚だ。  レオといると感じたことのない感情をゆすり起こされる。  今日誘ったのも気まぐれではあったが、彼と出かけてみたかったのもある。  しきりに心配をされていたのもある。  そっと彼の額にキスを落とす。  彼が俺を好きなら俺も彼を好きになって良いのだろうか?  そんなあどけない疑問が浮かび自嘲する。  こんなに長い間生きてきて今更、愛の一つもわからないなんて……。  意味あることと読書や勉学に時間を費やしてきたが、こんな原始的なこともわからないなんてな。  ただきっと、これが愛なのかもしれないと何となく思う。  愛おしい、触れたい、困らせたい、安心させたい……。  彼のいない時間に彼のことを思ってしまう。  そんなのを恋と呼べるのか俺には、はっきりとわからないけれど、今こうして側にいられることに少なくとも幸せを感じている。  彼の寝息を聞きながら、温もりに身を預けながら俺も眠りに落ちた。  次の朝。レオは腕の中で真っ赤になって困惑して見せ、そんな反応さえも俺を満足させた。

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