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◆エヴァン  タクシーを降りて、玄関の扉をくぐり、レオは手探りで明かりをつける。 「わ、ちょ……とっ」  彼の手を取って引き寄せ、抱きしめた。 「こっち見て」  胸の中で顔を上げるレオ。  変装だと言って、いつもと違う雰囲気の彼の姿をじっくりと眺めて目に収める。  そして、伊達メガネを抜き取り、唇を重ねた。  ゆっくりと形を確かめるように下唇を喰むと、それだけで息を詰める姿が愛おしい。 「エヴァン……ん」  その熱っぽい表情を眺めていると彼から触れるだけの口づけ。離れていくのを追いかけるようにまた唇を重ねる。  ずっとこうして触れたかった。  俺だけをその瞳に映して欲しかった。  レオのうなじに手を添えて、深く深く口付ける。控えめに動く舌先を絡めて、吸い上げるとぴくりと身体が揺れた。 「んぅ、ふ……っ」  甘い声が漏れ出し、興奮を掻き立てられる。深く舌を触れ合わせ、水音が響く。  足から力が抜けたのか、ぎゅっとしがみついて来るのが可愛いらしくて仕方ない。 「ん、ふ……はぁ」  唇を離すと潤んだ瞳に見上げられた。  赤くなった頬にキスを落とし、脱力した身体をそっと押し倒した。 「あ、……まって、ここで?」  俺のだった少しレオにはサイズの大きいシャツに手を掛けてボタンを外していくと、レオは恥ずかしそうにその手を掴む。 「我慢できない……」  はだけた首元に顔を寄せて囁く。  ここ最近すれ違い、まともに話もできなかった。そんな日々に溜まっていた欲に突き動かされて、自分でも制御がきかなかった。  ただ傷つけないように、それだけに必死で余裕なんてない。  今すぐ彼の全てを自分のものにしたい。  誰のことも目に入れないで……俺だけを見つめていて欲しい。  レオの首筋にキスを落とす。  以前つけた傷跡が薄っすらとまだ残っていた。 「ふ、ぁ……ん」  噛んでいないのにレオは敏感に反応する。  傷跡をそっと舐めて何度もキスを落としながら、シャツをはだけさせ素肌に手を這わせる。  脇腹に良く引き締まった腹筋、薄いが男らしさを感じる体躯に情欲を掻き立てられる。 「あ、ん……んぅっ」  首、肩、鎖骨とキスを落としていき、薄く色づく胸の先にも同じように唇で触れると、びくりとレオの身体が跳ねた。  ぎゅっと口元を抑えて声を我慢する姿に嗜虐心をくすぐられる。 「んんっ、……ぁっ」  ねっとりと舌を這わせ、舌先で転がすように弄り、軽く吸い付く。  嬌声をあげ、身体をビクつかせて魔力関係なしに乱れる姿に欲情した。  胸に吸い付きながら、そっと彼のベルトに手を掛けて前を寛げる。 「あぁっ、えゔぁ……ん、んんっ!」  もう一方の胸の先をぺろぺろと舐めながら、形を持ち始めた彼をそっと下着の上から撫であげた。  繰り返すとすぐに固く反り立つ彼に触れながら、頭では甘ったるいセリフがこだましていた。 『君が同じ気持ちじゃなくてもいい、ただ……愛してる』  ヴィンセントとクラウディオが交わしていた言葉。 『あなたを好きにならずにいられない』  訳しているだけなのに、まるでレオに向かって話しているような気持ちになっていた。  どれもこれも自分の気持ちと違わないものばかりだったから。 「レオ……」  下着をずらし直接その熱に触れる。熱く昂ったそこを形を確かめるように撫であげる。そして、胸元から唇を離し、レオの顔を覗き込んだ。  彼は耳まで真っ赤になって栗色の瞳を潤ませ、荒く息をついた。  そっと口元を押さえる腕をどける。 「ふ、ん……ぁあ……っ!」  だらしなく唾液を垂らし、熱っぽい声が漏れるその唇をまた塞いだ。 「んん……ぁ、……ふぁ」  手の動きを早めると、ぎゅっと服を掴み縋り付いてくる。  受け入れて、求めてくれるレオに欲望が満たされていく。  もっと俺でいっぱいになったらいい。  俺のことだけ考えて、俺のことだけを見て……。  胸に渦巻く気持ちを上手く伝える言葉がない。  言葉にしてしまったら彼から離れられなくなりそうで怖い。  彼は、俺のことだけじゃないから。  初対面のクラウディオに同情し、ヴィンセントとの関係を心から心配し喜ぶ。  友人も大勢いる。  まともそうなデート相手だって。  俺を気にかけているのもその一部、その延長でしかきっとない。  困っている人に手を差し出し、求められたら応える……きっとそうなんだろう?  言葉で伝えようとしても、うまく話せないでお前を困らせる。  お前のためになにかしようとしても空回って一人もどかしい思いを繰り返す。  少しでもお前を想う人を減らしたくて、そんな利己的な心から恋人たちの再会を見守るような狭い心の男だと知ったら失望するだろうか?  胸を焦がす想いが愛なのかすら知らない未熟な俺を知ったら……。 「は、ん……んんっ!」  切羽詰まった声にならない声を上げるレオ。  だらだらと蜜を滴らせる昂ぶりを扱き、その唇に深く口付ける。  今だけでいい。  今だけでいいから。  俺のことだけでいっぱいに――。  びくびくと身体を震わせて果てるレオに一層熱に絆される。 「はぁ……は、んぅ……」  唇を離すと、恍惚とした表情のレオと視線が交わる。  ふにゃりと微笑む姿に胸を締め付けられた。  優しく、傷つけないように……。  そっと乱れてあらわになった白い肩に唇を寄せる。  この肌に傷をつけて、彼の奥に熱を埋めたい。  熱情に理性を失わないように息をついて身体を落ち着けた。 「エヴァン……ベッドいこ」  ぎゅっと首に腕を回して抱きつかれ、そんなことを言われる。  頭を占める欲求をどうにか振り払い、靴を脱がせ、自分のも脱ぎ、その身体を持ち上げてベッドに向かった。  ベッドに下ろし服を脱がせていく。  小麦色の腕や脚に比べ、色白な胸元や下腹部。健康的な程よく鍛えられたレオの身体がまぶしかった。  すっかり興奮を滲ませ火照った頬に唇を寄せると、レオはくすぐったそうに微笑む。  気怠げに身体を持ち上げて、レオの手が俺のTシャツを脱がしていった。  初めて出会ったあの夜をぼんやりと思い出した。  されるがままに、意味がないと知りながら傷の手当てを受けていた。  あの時とはまた違う手つきで、レオの手が俺の身体に触れる。 「きれい……」  そんな言葉を漏らしながら、レオの温かい指先が胸元や腹部を撫でた。  うっとりと彼の愛撫を受け入れ、そして膨れ上がりそうな欲望を必死に押し込んだ。 「エヴァン……」  彼の柔らかな唇が頬に触れ、首筋にあてがわれる。 「……っ」  気まぐれな触れ合いとわかっていても、ヴァンパイアにとって深い意味を持つその行為に胸が締め付けられた。  レオを抱き寄せてその首筋にキスを落とす。 「ん、ふ……」  甘い吐息が耳をくすぐる。  背中や腹部を撫でていた手が下に降りていき、俺の屹立に触れた。既に固くなって窮屈なそこをゆっくりと撫で、ジッパーを降ろされる。 「エヴァンのおっき……」  肩にもたれながらそんなことを言って下着ごとずらされる。  人を傷つけて避け続けてきたその欲に、レオの手が触れ、優しく、しかし慣れた手つきで扱かれた。 「んふ、がっちがちじゃん……苦しいでしょ」  ちゅっとまた首筋にキスを落としながら、レオは俺を刺激し続ける。  酷く興奮していた。  レオに触れられると言い知れない気持ちに支配された。汚い欲望で頭がいっぱいになった。  彼の行動も言葉もいちいちそんな俺の気持ちを煽ってくる。 「はぁ……ふ……」  息を吐きながらなんとか抑えようとしてるのに。 「ね、エヴァンの舐めたい」  その言葉も表情も、彼の全てに耐えられないくらいに欲情させられる。  レオが身体を伏せて、俺の屹立に口づけて舌を這わせる。 「……っ、レオ……」  先走りで汚れた先端を咥え込まれ、溶けそうなほど熱い腔内に包まれ息を飲む。  舌を絡ませ、吸い付かれ、快感に身体が震える。  すぐにでも果てそうなのを堪えながら、レオの頭に手を添えた。  下品に音をたてながらしゃぶりつき、根本を扱かれると、否応なしに射精感が込み上げてくる。 「……――っ」  離してと言う間も無く、快感に乱されてそのまま彼の腔内を汚していた。  久方ぶりに感じる高揚感に満たされる。  口を離してうっとりと見上げてくるレオの表情に見惚れた。  満足気に潤んだ瞳を細めて体液で口元を濡らして……。  そこでやっと口の中に出してしまったんだとはっとして、ベッド脇のティッシュを引き抜いて彼に差し出した。 「悪い……」 「んーん。……ふふ、きもちよかった?」  素直に精液を吐き出して口元を拭い、そして嬉々としてそんなことを聞いてくる。 「あぁ……」  うっとりと微笑む表情に耐えられずまた唇を奪った。触れるだけのキスをして額をくっつける。 「All I want is you.」  英語がわからないと知りながら、そうぼそりというとレオは「もう一回言って」という。  その言葉を聞こえないふりして、もう一度キスをして強く抱き寄せる。  そのままベッドに身体を預け、腕の中のレオの額や頭にキスを落とす。  くすぐったそうに微笑むのが可愛らしくて、心が満たされた。 『お前が欲しい』  そんなこと俺が無責任に言ったところで困らせるだけだから。  今はただこうして触れ合って、刹那的な喜びでいい。  それでいい。  それで、いいから。 

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