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幕間 甘い夜

 エヴァンと素肌で抱き合いながら、いちゃいちゃしてるなんて夢でも見てるみたいだ。  本の虫で引きこもりがちな彼からは想像できないくらいに、引き締まった男らしい体躯に惚れ惚れとしてしまう。厚みのある胸板や薄く浮き出る腹筋、彼の身体はどこをとっても綺麗だった。  なにより、こうしてはっきりとした意識の中でエヴァンと触れ合えるのが新鮮だった。ずっとエヴァンに噛まれて身体の自由が効かないまま、一方的に触れられるだけで終わっていたから。  抱き合いながら、背中を撫で下ろし彼の胸元に唇を寄せる。身体が火照っているせいか、そのひんやりとした素肌が心地良い。  エヴァンの指が頬を撫で、耳をなぞる。  ひとつひとつの動きにうっとりとしてしまう。  彼の腰のあたりを撫でて、足を絡めながら、顔をあげて形の良い唇にキスを落とす。  今がずっと続いて欲しい。  この触れ合いが気まぐれなんかじゃないって、安直に信じられるほど子どもじゃない自分が悔しい。 「レオ」  囁くようなその声に名前を呼ばれると心まで痺れてしまうようだ。  目線を上げると群青の瞳と目が合う。 「……んっ」  エヴァンの手が腰からするりと下に降りていき尻を撫でた。それだけで、びくっと身体が反応してしまう。この先の触れ合いを予感させる仕草に胸が高鳴った。  密着した彼がはっきりと形を示して俺の腹部を押し上げている。求めているのは俺だけじゃないみたいだ。 「ごめん……そのぜんぜん準備してなくて」  俺も出来ることなら彼と続きをしたいけれど、こんなにいい雰囲気になるなんて夢にも思っていなかったから。  なにより、実物のエヴァンを見て触れるとその大きさに少しだけ物怖じしてしまっていた。エヴァンと暮らし始めてからは、一人でも満足にしていなかったし。 「……がっかりした、よね」  恐る恐る彼を見上げると、熱っぽい瞳と目が合う。初めて血を吸われたときのように、俺を求めてくれてるようでぞくりとした。 「つ、次は、ぜったいしようね」  なんでこの人はこんなに、かっこいいんだろう。  誤魔化すように言いながら、赤くなる顔を隠すように彼の胸に顔を寄せた。  すると力強く抱き寄せられ、頭にキスを落とされた。 「あぁ」  そう、短く返して、尻に触れていたエヴァンの手がすっと下に降り太ももを撫でた。そして、そのまま持ち上げられて彼の腰に掛けられる。お互いにまた張り詰めたところが擦れあい、そこを包み込むようにエヴァンの手が触れた。 「ん、ぁ……」  彼の手と固くなった屹立に挟まれて感じずにはいられなかった。  どちらともなく唇を重ね、ゆっくりとじっくりと彼を確かめるようにキスをした。  体も頭の中もエヴァンでいっぱいになる。  満たされて、幸せで、ずっとこのままでいたい。  彼も同じ気持ちなら良いのになんて、思ってしまう。 『好き……愛してる』  今日、彼の口から溢れた言葉が俺へのものならいいのに。  からかってるんじゃなく、俺を求めてくれてるのならいいのに。 「ん、ふ……」  ぬちぬちと先走りで濡れ、より快感が強くなる。  好き。  エヴァンが好き。  口に出すとこの幸せな空気が壊れてしまいそうで、頭の中で何度も何度も繰り返した。  蕩けるような優しいキスと彼の手の動きでたまらなくなる。  すぐ果ててしまいそうになるのをエヴァンに縋りついてなんとか耐えた。  まだ、終わってほしくない。  もっともっと触れ合っていたい。  この夢が覚めてしまうのは嫌だった。  けれど、体は言うことを聞かなくて、エヴァンに触れられているだけで興奮しっぱなしで我慢ももう限界だった。 「んんっ、も、でちゃ……っ」  エヴァンの胸に顔を埋めて、急き立てるような手の刺激を誤魔化そうとする。  そんな最後のあがきも虚しく、お互いの腹部を汚すように精液が溢れ出した。  同時にエヴァンも息を詰めて果てるのがわかった。  脳みそが痺れるくらいの快感と吐精の脱力感が全身を襲う。  ぎゅっと抱きつくとエヴァンが額にキスを落とした。  顔を上げて彼の唇に自分から唇を重ねる。  包まれているのが幸せで微笑みかけると、エヴァンもにこりと微笑む。  笑顔を俺に向けてくれる。  それだけで胸がいっぱいだった。  満たされて幸せだった。  諸々片付けてからも、ずっと側にいてくれるエヴァンを意識せずにはいられなかった。  お互いに求め合うような時間の余韻を引きずりながら、とうとう眠る時間。  寝室の前でいつもならおやすみと言って別れるのに、今日は離れがたい。  とは言え、困らせたくもないからできるだけいつも通りを装った。 「おやすみ」  そう言って背を向けると、後ろから抱きしめられた。  首筋に顔を埋められ心臓が跳ねる。  そして嬉しくて頬が緩んだ。 「エヴァン……」  そのままくっついたまま一緒に布団に入った。  大人の男二人には窮屈なシングルベッドの上で、彼に抱き寄せられて密着する。  エヴァンの腕の中にいるのはドキドキして少し落ち着かないけれど、今日はいろんなことがあったなと考えているといつの間にかまぶたが重くなった。 「Sweet dreams」  うとうとする中でエヴァンの声が聞こえた気がした。  まだもう少し、この幸せな時間の中にいたい。この甘い夜に身を預けていたい。  けれど強い眠気には逆らえずに、彼の腕の中で眠りについた。

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