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 同時にマヤとエヴァンの捜査も始まった。しかし、夜闇に紛れた犯行で目撃情報が少ないだけではなく、魔法も使っていたらしく、簡単に見つかるわけもなかった。  ヴィンセントの捜索も難航しており、監視カメラの映像などから都外へ向かったと見られているらしい。  家に着き、エヴァンの部屋で古書を探した。  机の上には読みかけの本や、メモ書きが残っており、彼がそこにいたのだと感じられた。  彼の蔵書は見たこともない言語の古い本が多く、多少探すのに手間取った。 「あった……」  古めかしい革張りの装丁に金属の留め具の付いた、見るからに重厚感のある一冊。手に取るとずっしりとした重みと古い紙の匂いを感じた。  ひと目見ただけではその価値を測れないが、ヴィンセントもエヴァンも大事に大事に扱っていた。この古書を引き渡すことになったなら、二人からは非難されるかもしれない。これを奪われることで、ヴィンセントの目的も果たせなくなり、エヴァンにも迷惑がかかるのかもしれない。  だけど、命より優先するものはないはずだから。  たとえこの行動の結果でエヴァンに嫌われてしまったとしても、彼が無事なら、それ以上望むことはない。  そう決心し、本を手に部屋を出ようとしたとき、ふとポケットの中のスマートフォンが鳴った。 「もしもしクラウ? どうしたの?」 「レオ、エヴァン様は……エヴァン様はそこにいるか?」  彼の声は電話越しでもわかるくらいに酷く震えていた。 「実は連れ去られて……でもなんでクラウが知ってるの?」 「そんな、じゃあ本当に」 「クラウ? クラウどうしたの?」  息をつまらせ泣いているようだった。 「どうしよう……彰紀が」  泣き咽びながらも、彼はなんとか言葉を繋げた。  一晩今までのことを考えていたクラウディオは、今朝方、久良岐に連絡をした。  これまでヴィンセントを失った悲しみと孤独を埋める為に久良岐を利用していたと、謝罪と自分の気持をはっきりと伝えたそうだ。  しかし、久良岐はどこか様子がおかしかった。  それも当然だ。ヴィンセントに別れを告げ、二人で前もって計画していた旅行に向かった久良岐とクラウディオは和やかに過ごしていた。そんなときにヴィンセントの誘拐事件が重なってしまった。俺の連絡によって取り乱したクラウディオは、久良岐をひとりホテルに残して東京に戻ってきたのだ。  ただでさえ、怒りと悲しみを味あわせていたのに、追い打ちをかけるように別れを切り出され、冷静でいられる訳がなかった。 「彰紀すまない……こんなにお前を傷つけてしまったのも、全部私のせいなんだ。私が弱いから」 「いいんだよ、クラウ。……僕らの邪魔をするやつは消してしまおう」 「彰紀?」 「あんな男、生きているからクラウも惑わされるんだ。何度も何度も裏切られても未練が残ってしまうんだ。ならさ、存在を消してしまえばいいよ……そしたら俺達だけでしょ?」 「彰紀なに言ってるんだ」 「大丈夫。やつらもさ、公爵を捕まえてヴィンセントは用済みだって言ってた。殺したっていいって。俺が、俺達の関係を守るから……だから待っててね。クラウ、愛してるよ、この世で一番……誰よりも愛してるよ」  途切れた電話を最後に、連絡も取れなくなったらしい。  久良岐の言葉が本当ならば、エヴァンは確かにヴィンセントを拉致したエクリプス・オーダーに捕まっているようだ。  そして、そのせいでヴィンセントを生かしておく理由も無くなってしまったのだった。

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