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幕間 帰る場所

★エヴァン  車の外を流れすぎていく町並みを眺めながら、肩に寄りかかる重みに心地よさすら覚えた。  冷房の効いた車内でも触れ合っているところから伝わるぬくもりにほっとする。  再会してしばらくして、安心したように酔いつぶれて眠りについたレオの姿を微笑ましく思った。  ずっと悩んでいた。  離れるべきだと頭ではわかっていても、彼の存在を忘れられずに悶々とした。  距離を置いて一層、レオの優しさや暖かさを知った。  後悔は日毎に募り、うんざりするくらい恋しさや寂しさが胸を占め……。笑えてくるほどだった。こんな人間臭い感情がまだ自分には残っているのだと。  タクシーは、すっかり見慣れたレオの家の門の前で止まった。 「レオ」  深く眠っているのか、声をかけても目を開かない彼を抱き上げて車を降りた。  返しそびれていた合鍵で玄関の扉を開けて、手探りに明かりをつける。  すっかり慣れ親しんだ家。  リビングを通り、奥にあるレオの部屋に向かい、ベッドに寝かせた。  そのまま彼の横に身体を預け、安心しきった寝顔を眺めた。  いつの間にか俺も眠っていたのか朝になった。  触れ合ったレオの体温が心地よく、そっと抱き寄せた。 「んぅ……」  その刺激で目を覚ましたのかレオが声を漏らす。 「レオ、おはよう」  彼の乱れた前髪を梳くと、眠気の抜けきらない様子のまま俺を見つめ、そしてはっとしたように俺の手を握った。 「エヴァン……」  嬉しそうにそのまま頬に俺の手をあてがい、うっとりとするレオの額に唇を寄せた。  悩みよりもずっと、なぜもっと早く戻らなかったのかという感情が強くなった。  こんなにも満たされるのはレオの隣にいるときだけだ。  顔を離すと、まだぼんやりとした表情の彼が追いかけるようにして俺の唇を塞いだ。  柔らかな熱が触れ、じんわりと心を蕩かす。  触れるだけのキスに絆されて、そっと彼の身体を撫でた。 「あっ……んぅ」  鼻にかかった声の響きに堪らなく胸を締め付けられる。  そっとTシャツの裾から手を忍ばせると、火照った身体がびくりとはねた。 「えゔぁ……っ」  頬や首筋にキスを落としながら、滑らかなレオの肌を何度も優しく撫でた。  耳元で吐息が漏れるのが聞こえ、情欲をくすぐられる。  気が急くのをどうにか堪えながら顔をあげ、もう一度口づけをしようとすると、同時にぐーっとくぐもった音がレオの腹から聞こえた。  唖然として見つめ合い、そしてレオの顔がみるみる赤く染まっていく。  ぱっと両手で顔を覆って恥ずかしがるレオ。  その姿が可愛らしくて思わずふっと笑みが溢れた。 「元気なお腹だな」  ぺちぺちと腹を叩くと、「もう~~」と声をあげて悶えてレオが身体を起こした。 「……朝ご飯にしよ! エヴァンも食べるでしょ?」  すっかり耳まで赤くしながらも、そうなんでもなさそうに言ってみせるレオ。  いい雰囲気は流れてしまったけれど、こんな朝も悪くない。 「あぁ、レオの手料理が恋しかった」  彼に手を引かれて、二人でキッチンに向かった。 「なんもないや。冷凍うどんと…お肉あるし肉うどんにしよかな」  冷蔵庫の中身を確かめて、食材を取り出す彼をダイニングの椅子に腰掛けながらぼんやりと眺めた。  鍋でお湯をわかして、もう一つの小鍋では調味料を煮立たせて肉に火を入れる。  煮詰まる甘辛い香りを嗅ぎながら、ふっとレオと出会った頃の事を思い起こした。  あれから随分見慣れてしまったけれど、こうして台所に立ち、手早く料理をする姿が好きだった。  様子を見てかき混ぜたり、包丁を握って食材を切ったり――何でもない仕草をつい目で追ってしまう。  庭の木々が風に揺れ、窓からの光に影を落とすカウンターや湯気のたつ鍋。気の抜けた鼻歌を歌い、ぱっと振り返って俺に話をするレオ。  望んでいた日常の暖かさにどこか懐かしさを感じる。 「さ、できたよ! 一緒に食べよ」  数分後。器に盛ったうどんを手にし、レオはきらきらとした木漏れ日を背に微笑む。  もう一度、「ただいま」とそっと呟いた。

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