84 / 98
2
おとぎ話なら、恋人が結ばれたらその後は、永遠に幸せに暮らしました――で締めくくられる。
けれど、幸せって?
幸せがずっと続くものじゃないって私は知っているじゃないか。
すれ違い続けて、満足に喧嘩も出来ないまま、ヴィンセントから逃げ出した。
私が弱かったから?
私が甘えて何も出来なかったから?
与えられる幸せは決して紛い物ではないけれど、恋人は二人の関係のことだ。
だから、どちらか一方が幸せなら良いわけじゃない。
それじゃあ、永遠に幸せになんてきっとなれやしない。
ヴィンセントの傍にいるために私に出来ることは何なんだろう。
絢子との何気ない会話の後、頭の中はそんなことでいっぱいになっていた。
「ねぇ、ヴィンセント」
「どうしたのクラウ?」
「あなたの好きなものってなに? 遺物とか遺跡とか以外で」
仕事から帰宅し、早速そう聞くと、ヴィンセントは一瞬悩んですぐに答えた。
「クラウ」
「っ……!」
想定していなかった答えに思わず言葉が詰まる。
満足そうに微笑む色男に絆されそうになるが、思い直してまた口を開いた。
「そ、そうじゃなくてほら、私と離れてる間に好みが変わったりとか、あるだろ。随分長いこと時間も経ったし」
「好みか、難しい問題だな」
「難しいことなんてない。ほら、好きな食べ物は? 好きなブランドとか、映画とか」
「うーん、そうだなぁ」
腕を組んで首を傾げ思い悩んだあと、珍しくヴィンセントは困ったように、肩をすくめて見せた。
「無いことはないだろ? そう難しく考えずにさ」
「……正直、流行り物やそういうのは気にしていたし、自分に合うかどうかで言えばあるんだけど、好みって言われると難しい」
昔から自分のことに頓着無いと思っていたけれど、これは想像以上だ。
以前も自分が取り入りたい相手に合わせて柔軟に対応する彼を器用なものだと思っていたが、ここまで重症とは。
私の好みなら、言わなくたってよく知っているのに。
「わかった、ヴィニー。次の休みは空けといてね? デートしよう」
ヴィンセントの手を取り微笑みかける。
知らないのなら知れば良い。
好みも、自分自身を大切にすることも。
きっとそんなお節介ができるのも恋人の特権だから。
「あなたの好きを一緒に探そう」
ともだちにシェアしよう!

