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 ゆっくりと押し入ってくる感覚にぞくぞくする。そのまま密着してキスしながら、深くまで押し込まれた。  その大きさや圧迫感を感じつつ、同時に体の奥で熱が燻る。 「ん、ぁっ……あ、んぅ」  じれったいくらいに優しく、出し入れする腰つきに堪らなくなる。  大事に大事に扱われることに満たされるのと同時に、もっと激しく犯してほしいとそんな欲が頭を掠めていった。  もっともっとと急く気持ちで深く口付ける。舌先を吸われ、じんと脳みそまで痺れるような感覚が襲う。 「ふぁ、あっ……んぁっ」  唇を離して、腰を掴み直され、徐々に動きが早くなる。  決して激しいわけじゃないのに、気持ちいい所を確実に抉っていく快感に頭が真っ白になった。  シーツをぎゅっと掴んで、つい口からは嬌声が漏れ出した。 「あぁ、ん……ヴィニー、いいっ」  肌を上気させながら、うっとりと見下ろす彼の視線に隠せないくらいに気分が高揚した。  なんでこんなにこの人はかっこいいんだろう。  整った顔立ちや精悍な体つきも文句のつけようもないが、なによりもその瞳に翻弄される。愛おしいと思わされる視線に。  彼の気持ちよさそうに目を伏せる仕草も甘く漏れる吐息も心を満たしていく。  角度を変えてより深い所を責められ、両手を口元で握りしめて、その強い刺激に悶えた。左手の指輪が指先に触れる。ロマンチックな彼らしいプロポーズだったと、思い返すだけで頬が緩んでしまう。幸せで満たされて、胸が一杯になる。  永遠なんて無いと知っているけれど、どうか一日でも長く彼のそばにいられますように。 「あぁっ、あっ、んぁ……――っ!」  繰り返し奥を突かれ、欲情しきった身体は簡単に絶頂へ向かった。   びくつく身体を押さえられず、彼の手に縋り付いて耐えた。  体の芯から揺さぶられるような快感に呆然としていると、ヴィンセントが身を屈めて、唇が触れ合った。優しく触れるだけの口付けを繰り返し、彼の唇が続いて頬や目元にキスを落としていく。  くすぐったさに思わず笑いながら、人知れず涙が溢れているのに気付いた。こんなにも幸せで満たされる感覚は、あまりにも久しぶりで怖いくらいだった。 「クラウ……」  身体を持ち上げられて、抱き合いながら深くキスをした。  そのまま上に跨る形になり、深く深く更に身体が密着する。  ゆっくりとヴィンセントが動き出し、より深い所を刺激されて堪らずに彼の肩口に縋り付く。  強すぎる快感に頭が真っ白になる。  それに加えて、ふと彼の唇が首筋に触れた。  ヴァンパイアにとってそこは特別な場所だった。お互いに気の許した相手だけが触れる所なだけでなく、特別な誓いをする時に触れる部分だ。  ずっと昔に、ヴィンセントと私もそこに牙を立てて血を吸い合って、そして誓いを立てた。  彼の真似をして首筋にキスを落とす。 「んぁっ、はぁ……ねぇ、ヴィニー」 「ん? どうしたの?」 「ここ噛んだら、怒る?」  くすっと笑って、耳元で囁くようにヴィンセントは告げた。 「怒らないよ、シェリ。僕の身体は君のものだ。全て捧げるよ」  その大げさな言い回しについ笑みが漏れた。  そっと彼の首筋に優しく牙を立てて噛みついた。甘く濃い血液の味を感じてすぐ、以前と同じように魔力が共鳴し眼の前がくらんでいった。  胸を焦がすような愛情が胸を占めた。  そして光が見える。その向こうにいるのは美しい女性……ではなく私だった。  手を伸ばすと空を切り、それでもいいとどこか諦めたような鈍い愛に光が弱まっていく。  いつだって表に出している以上に彼は私を思ってくれていたのに、ずっと気付けないでいたんだと思わされる。離れていた間もずっと、途方もない時間を私に注ぎ込んで来たのだと思うと胸が傷んで仕方なかった。もう二度とこんな風に彼が諦めなくていいように、どうかその手を掴み続けられるように――。  視界が次第にはっきりとして、心配そうなヴィンセントの声が聞こえた。 「……平気?」 「あぁ。ヴィニー……」  現実に引き戻されぼんやりとした頭のまま、身体をそっと彼に預けた。そして、腕を回して強く抱きしめた。  もう二度と彼から逃げたりしないと、そう何度も心の中で唱えた。  こんなにも私のことを思ってくれているヴィンセントを失いたくないと、しがみついた。 「ねぇ、あなたも噛んで」  ヴィンセントの血の味を口の中に感じつつ、そう頼んでみる。  ひしと抱き寄せられ、首筋にキスを落とし、ヴィンセントが私の首筋に牙を立てる。ふつりと肌が裂け、傷口がじんわりと熱くなる。  まるで誓いの儀式の真似事みたいだった。  白いシーツの上、ベッドに乗せたままだった真っ赤なバラの花束から花びらが数枚落ちている。脱いだ服も散乱し、場所も時間も様式通りではないけれど、それでも2度目の誓いには相応しく思えた。  身体で繋がる以上に深く深く交わる感覚がある。肉体に刻み込まれる感覚がある。  血を吸って、しばしぼんやりとしていたヴィンセントは、私の首筋にできた傷口を舐めて、首に肩に何度もキスを落とした。 「愛してるよ、クラウ」  シンプルながらも真摯な響きに、より一層心が満たされた。 「私も、愛してる」  ほのかに火照る密着した素肌にほっとしながら、再びゆっくりと身体を揺さぶられ、身体の奥を探られる。  ぼやけた思考も相まって、与えられる甘い刺激に意識が向かった。  言葉だけでも愛撫だけでも足りない。こうして全てを愛し尽くされる感覚を知ってしまったら、彼無しで生きていくことなんてできない。  深く奥まで貫くヴィンセントは、気持ちいい所を抉っていき、敏感になった身体はあっという間に限界に近付く。 「あっ、ん、あぁ……っ!」  頭が真っ白になって、快感が背筋を這い上がる。  彼の手で前にも刺激を加えられ、耐えようもなく白濁液が溢れ出した。  彼を汚すのと同時に身体の奥にもヴィンセントが熱を吐き出しているのがわかった。  身も心も満たされ、甘い甘い幸福感が全身を包み込む。  夏の夜は短いけれど、忘れられないくらいに特別な一夜になったのは言うまでもない。

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