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 片付けを済ませて、正樹の眠る布団に添い寝するように横になった。あどけない寝顔を見守りながら、自然と微睡みかけていた。  春樹さん達が帰って来る予定の夕方まではまだ時間がある。  おもちゃで遊んだっていいし、最近正樹が気に入っているお絵描きを一緒にしてもいいだろう。  そんな風にうとうとし意識を殆ど手放した頃、正樹の泣き声で目を覚ました。 「ママどこ……」  すすり泣きながら身体を起こしきょろきょろと辺りを見回す正樹。 「まさくん、ママ達お出かけしてるんだよ」  俺も身体を起こして、咄嗟に正樹の肩に触れるがすぐに泣き止むような様子ではなかった。 「ママぁ……」 「もう少ししたら帰って来るから、それまでお兄ちゃん達と遊ぼう? ね?」  まだ幼い正樹にとってしたら、知らない家で両親がいないのは心細いのだろう。もしかしたら夢見が悪かったのかもしれない。  なんとか声を掛けて抱き寄せてみるが、嫌がって押しやられてしまう。 「大丈夫か?」  泣き声に心配になったのかエヴァンも自室から戻ってきた。 「春樹さん達いなくて不安になっちゃったみたい」  もう一度抱きしめてみようとするが、完全にいやいやモードに入ってしまったようで困ってしまう。  実の弟とは言え、一緒にいる時間が限られているのもあるのか、俺じゃ安心させることも難しいようだ。  エヴァンも困ったようにおずおずと正樹の側に寄る。  本当は邪魔をしたくは無かったが、このまま泣いたままにしとくわけにもいかない。 「……あ、もしもし春樹さん?」  春樹さんに電話をかけて事情を話した。 「まさくん、ママだよ! ほら」  電話越しにでも春樹さんと話せて、少しずつ落ち着いていく正樹にほっと胸を撫で下ろす。  どうやら置いていかれたことが急に不安になってしまったようだった。 「ママ来るまでもう少し待てる?」  電話を切った後、そう聞くと、正樹は頷いて俺に抱きついて来た。  少し落ち着いたとは言え、未だに鼻をすすっている正樹の背中を撫でてあやした。  エヴァンは心配そうにそんな俺達を見て終始そわそわしていた。 「甘いもの……」  ふとエヴァンが呟いた言葉が耳に入る。 「甘いもの?」  彼を見ると心配そうに眉を潜めて頷いた。 「あぁ、食べたら機嫌よくなるんじゃないかと思って」 「あ、それいいね! ね、まさくんかき氷食べる?」  エヴァンの提案でふと思い立ちそう声を掛けると、正樹は不思議そうに首を傾げる。 「かき氷食べたこと無い?」 「わかんない」 「甘くて冷たくて美味しいんだよ。一緒に作ってみよう!」  子供の頃、ばあちゃんの家に来た時に作ってもらい、かなりはしゃいだ記憶がある。きっと正樹も喜ぶだろう。  早速準備をすることにした。正樹が離れたがらないので、抱き上げたまま、エヴァンに手伝ってもらいながらかき氷機や氷を準備した。  リビングのテーブルの上、くまの形をしたハンドル式のかき氷機に氷を入れていくのを興味津々に見つめる正樹。 「まさくん、ほら見て? ここ回したら氷出てくるんだよ」  器をセットしてハンドルを回すと、削り口から雪のように細かく削れた氷が出てくる。正樹と一緒にエヴァンまで興味深そうに覗き込んで見ていた。 「まさくんもやる……!」  一緒にハンドルを持って回しているうちに正樹は元気を取り戻したようで、笑い声をあげて喜んでいた。  できあがったかき氷には定番のいちごシロップと練乳をかけた。 「んまぁ」 「うん、うまいねぇ」  甘いもの効果か、正樹はすっかり元気になってスプーンを口に運んでいた。 「エヴァンありがと。ナイスアイデアだね」 「お前も疲れて帰ったら、甘いものよく食べてるからな」 「確かにそうかも。俺のことよく見てるね?」 「当たり前だろ」  何でもなさそうに言うエヴァンの言葉に、つい頬が緩んでしまう。  誤魔化すようにかき氷を口に含むと、ひんやりと冷たい氷が溶けシロップの甘さが口に広がった。

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