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数時間後、インターホンが鳴って、父さんと春樹さんが帰って来た。
「おかえりなさい二人とも」
「ただいま」
春樹さんの声を聞いて、正樹がリビングから走ってくる。
「ママ~!」
「まさくんただいま。よかった機嫌良くなったのね」
「うん。春樹さんの声聞いて安心したみたい。あと、一緒にかき氷作ったんだよね」
「かきごおり! すごいの!」
春樹さんと父さんに会えて上機嫌の正樹は、早速今日のことを話していた。
「そうだ、車から荷物運ぶの手伝ってくれ」
父さんに言われて俺とエヴァンとで荷物を運ぶのを手伝った。
正樹へのお土産だけでなく、チキンやらピザやら豪勢な食べ物も多かった。
「わ、こんなにどうしたの」
「どうしたのってお前のお祝いがまだだろ?」
「そんな、わざわざいいのに」
「こういう時は素直に喜ぶものだ」
微笑む父さんからケーキの箱を受け取り、エヴァンは首を傾げる。
「レオのお祝い?」
「あれ、言ってなかったっけ。今日、俺の誕生日でもあるんだ」
そう言えば伝え忘れていたかと今になって気付いた。父さんのお祝いのことや、正樹との時間が楽しみすぎて浮かれてしまっていたようだ。
「聞かなかった俺も悪いが、そうか……」
ぼそぼそと言ってエヴァンはやや呆れたようにため息をついた。
「お前のことだもんな。自分に頓着しないのはいつものことか」
「なんだよそれ~」
一人で納得したように笑うエヴァンは、そそくさとケーキを持って玄関に向かっていく。
そのままゆっくりと過ごし、日が傾き始めてきたころ俺と父さんの誕生日会を始めた。
チキンにピザに、春樹さんがさくっとサラダや副菜を作ってくれて、リビングのテーブルいっぱいに料理が並んでいた。
すっかりご機嫌の正樹のおしゃべりを聞き、父さんと春樹さんの今日のデートの話なんかも聞いて楽しく食事をした。
どうせなら泊まっていけばという話になって、お酒を傾けながら話を弾ませた。
以前実家に行った時のように、家族の中にすっかり馴染んでいるエヴァン。
あの時は、お別れの前で寂しさも強かったけれど、今はただ純粋にこの瞬間を楽しめている。誕生日にこうしてエヴァンが側にいてくれることが素直に嬉しかった。
食事も一段落し、タイミングを見計らって父さんにプレゼントを渡した。
「じゃーん! これ欲しがってたでしょ」
父さんの密かな趣味の鉄道模型のプレゼントだ。時間が取れず最近はあまり趣味も出来ずにいたからと、かなり喜んでくれていた。
そして父さんと春樹さんからはオーブンレンジを貰った。長年使っていて買い替えようと思っていたから、嬉しいプレゼントだった。
更には正樹からも似顔絵を貰った。子供らしいタッチの絵は見ているだけで頬が緩んでしまうくらいに可愛らしい。
美味しいご飯にお祝いに幸せを噛み締めていると、エヴァンが席を立ち自室から箱を持って戻ってきた。
「この間、欲しがってただろ?」
その箱を開けてみると、先日買い出しに行っていた時に見ていた憧れのスニーカーだった。
「これ、いつの間に。その……貰ってもいいの?」
「あぁ、お前に贈り物をしたくて用意してたんだ。渡すタイミングを見計らっていたんだが、丁度良かったな」
「本だって貰ったのに」
誕生日だと伝え損ねていたのに、俺のこと考えててくれたんだと思うと嬉しくて胸が暖かくなった。
のんびりと腹ごなしして、みんなでケーキを食べることにした。
シンプルな生クリームといちごのケーキにはわざわざ俺と父さんの名前入りのプレートがあり、囲うようにろうそくも立てられていた。
いくつになってもろうそくの火を消す瞬間はわくわくする。
「願い事は?」
ふとエヴァンがそう聞いてきた。
「願い事?」
「あぁ、ろうそくを消す時にするだろう」
エヴァンが言うことにいまいち腑に落ちないでいると父さんが「あぁ」と声をあげた。
「海外ではそういう習慣があるって聞いたことあるな」
「そうなんだ? 願い事、願い事か」
改めて考えてみると、いろいろと思い浮かぶ。
家族の健康とかみんなの幸せとか。けれど、一番はまた別だ。
「決めた! 父さんは?」
「俺も決めた」
揺らめく小さな炎に願いを込める。
欲張りかもしれないけれど、どうかエヴァンとできるだけ長く一緒に過ごせますように。
まだまだ彼とは出掛けたい場所もある。俺の気に入っている店やこの間話していたプラネタリウムにも行きたい。本物の星空を見るために山に出掛けたっていい。
暑さの引いた秋も、その後に訪れる冬も、そして暖かな春も、ずっと隣にいたい。
そして来年もこうして、今日のようにエヴァンと一緒に幸せな誕生日を過ごせますように――。
ふっと吐いた息に吹かれ、ろうそくの灯りが消える。
隣に座るエヴァンを見ると穏やかに穏やかに微笑んでいた。
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