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夜も深まり泊まっていく事になった3人のために用意をした。普段は使っていない和室に布団を一組引き、エヴァンの部屋に置いていた布団を持ってきてと準備していると、正樹と春樹さんがお風呂を済ませて戻ってきた。
「レオくんありがとう。けどエヴァンさんの持ってきちゃって平気だった?」
「あぁ、うん。最近一緒に寝ちゃってるし」
何気なく返したつもりが春樹さんは口元に手を当てて驚いた様子だった。
「あれ、あ、言ってなかったっけ」
「なんとなくそうなのかなってパパと話してたけど、そっか、やっぱそうなんだ」
思えばはっきりとエヴァンと恋人だということを言うタイミングが無かった。
「正樹にも良くしてくれて、優しそうよね」
「めちゃくちゃ優しいよ」
「今度詳しく話聞かせてね」
「うん! そうだ、父さんの様子見てくるね」
思ったよりもあっさりと春樹さんは受け入れてくれて、エヴァンが褒められたことにも浮かれながらリビングに戻った。
「……それで、玲央が飛び出して行ってね」
対してお酒の強くない父さんはすっかり酔いが周り、隣に座るエヴァンに機嫌良さそうに話を聞かせている。すっかりエヴァンに相手を任せていたが、これは悪いことしたな。
「もー、父さんも明日仕事でしょ。ほら行くよ」
羽目を外して飲みつぶれた父さんに肩を貸してなんとか立たせた。
「エヴァンごめんね、お風呂空いたから先済ませちゃって」
まだ言葉にならない言葉を繰り返す父さんを和室の布団まで連れていった。
戻ると正樹を寝かしつけながら春樹さんは、うとうととしていた。
なんとか布団に父さんを寝かせ、川の字で眠る親子を微笑ましく思いながら電気を消した。
「おやすみなさい」
和室を出て、明日の朝、楽できるように炊飯を予約したりと残っている家事をすることにした。
賑やかな時間が過ぎて、静かなひとときがやって来る。
しばらくして、先にお風呂に入っていたエヴァンが戻ってきた。
「何か手伝うか?」
「ううん、これで終わるから」
麦茶のパックをポットに入れて水を入れながら返した。
「ごめんね、父さんにまた付き合わせちゃって、ちょっとうざかったでしょ」
「いや」
思い出すようにエヴァンはふっと笑う。
「なんというか、俺も家族の一員になれたような、そんな気になれた」
少しさみしげにも見える微笑みを浮かべるエヴァン。ポットを冷蔵庫にしまって、彼のもとに向かい手を取った。
「もう一員と言ってもいいんじゃない? 二人ともエヴァンのこと信頼してるし、まさくんだってエヴァンのこと大好きだし」
「そうだと、いいが」
「そうだよ」
エヴァンを見上げ笑いかけると、彼も小さく笑って見せる。
「さてとお風呂、俺も済ませてくる。先寝てていいからね」
お風呂を済ませて部屋に戻ると、エヴァンがベッドで本を読んでいた。
「寝よっか」
「あぁ」
電気を消して、布団に潜った。
「今日、楽しかったね」
「楽しかったな」
エヴァンと正樹と3人で過ごせた時間は忘れられない思い出になった。
正樹といる時のエヴァンは、しっかりお兄ちゃんをしている。それが少しだけおかしくて、愛おしい。
「そうだ、エヴァンの誕生日はいつなの?」
寝返りを打ち、彼の方を振り向いた。暗闇の中でも色白なエヴァンの顔がこちらを向いたのが分かる。
「誕生日か……正確な日はわからないんだ」
「え?」
予想していなかった答えに驚いてしまう。
「前も話したかもしれないが、母には殆ど捨てられた様なもので、いつ生まれたか定かじゃないんだ」
「あ、そうなんだ……ごめん、俺」
当たり前にあるものと思っていたが、彼の境遇をよくよく考えると知らないのもおかしくはない。
やってしまったと後悔していると、エヴァンは笑って俺の頭を撫でた。
「謝らなくていい。自分の誕生日と呼んでいいかわからないが、ヴァンパイアになってからは父の誕生日に一緒に祝ってもらっていた。だから一応、1月19日が誕生日ということになっている」
「そっか……お父さん、本当に優しい人だったんだね」
「そうだな、愛情深い一面は確かにあった」
大事件を引き起こした張本人であったとしても、エヴァンの口から聞く姿は優しく家族思いな人物を想起させる。
「1月19日ね。エヴァンもお父さんと同じ誕生日なんて、すごい偶然だね。……ね、俺にもお祝いさせてね」
頭に触れていた彼の手をそっと掴んで頬にあてがった。
「あぁ、ありがとうレオ」
「うん。二人きりでゆっくりしてもいいし、どこか出掛けたっていいし……今日みたいに賑やかなお祝いも悪くないでしょ」
ひんやりとしたエヴァンの大きな手が心地よくて、更に近くに身体を寄せると抱き締められた。
「そうだな。家族って温かいものなんだな」
エヴァンの腕の中が心地よく、狭いベッドの上で密着して抱き合った。
「レオ……本当におめでとう。お前が生まれてきてくれたこと、嬉しく思うよ」
エヴァンにしては大げさな言い回しに照れくさくて、腕の中で頷くと、頭にゆっくりとキスをされた。
家族に祝われるのも嬉しいけれど、大好きな人にこうして祝われるのはまた別の嬉しさがある。
くすぐったくて胸が満たされて、あぁ、幸せってこういうことを言うのかなと、静かにこの感覚を噛み締めた。
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