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サウンド・オブ・サイレンス 4
神奈川県へ入ると、薄墨を流したような雲の群れが空へ広がってきた。灰色の住宅街が飛ぶように過ぎていく車窓を見て、東京が近くなったと考える。
実流を好きになって三年が経つが、実流と自分の秘めた思いに変化はなかった。実流のライブが終わったとき、実流が真っ先に見つけるのは真理のとなりにいる鎌田の顔だったし、それを焦げついた心で笑う自分の顔も相変わらずだった。
鎌田を見て輝く実流の顔が憎らしくもあったし、実流の素直さが愛おしくもあった。
そして、その顔が自分へ向けられたものであったなら、と、何度も思った。
以前、どうして音楽を作っているのか、実流に聞いたことがあった。
真理は、実流が嬉しそうに理由を話してくれるのを待った。
が、実流は、目の焦点を遠くしてぎゅっと口元を引き結んだ。
(静寂が怖いんだ)
喉の奥から絞り出すような声だった。
(静寂が耳から入ってきて、僕の頭を押し潰そうとする)
新幹線が東京駅に滑り込んだ。
新幹線の改札口を出て、地下鉄への連絡通路を歩く。通路の柱にいくつも連なって設置されたディスプレイが明滅する。
ディスプレイのなかで少女たちが同じ動きで歌を歌っている。
雑踏に流れる歌を誰も真面目に聴いていない。
(音楽のことだけを考えていようと思うんだ)
やわらかな青みを帯びた実流の声を聞きながら、長いエスカレーターを下っていく。
(そうしたら、誰かが扉を開けてくれると思うんだ。「君を待っていたんだよ」って)
実流の歌はこれから百万人の耳に届くかもしれない。が、実流のほんとうの声が聞けるのは自分しかいない。
これだけの人混みのなかで、実流のほんとうの声を聞いていた人間は自分しかいない。
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