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サウンド・オブ・サイレンス 7*
真理が実流のアパートへ戻ると、実流は白いTシャツとトランクス姿で髪を乾かしていた。
「どんな格好をすればいいかわからなくて……色気のない格好で、ごめん」
実流のようすが変わらないことに安堵しながら、真理はチェスターコートを脱いだ。
「心の準備をさせてくれて、ありがとう」
実流がバスタオルを手に、真理のとなりへ並んだ。
「やっぱり、真理は優しい」
自分から名前を呼んでおいて、顔を赤くしている。
「あとは何をすればいい?」
真理は実流の手を取ると、湿気の残る浴室の扉を開けた。
実流の歌を聴いていると、心のなかのしんとした暗闇の底へ辿り着く。
冬の朝のようにひんやりとしていて、張り詰めた空気が心地よい場所だ。
四畳半の寝室の薄暗いベッドで、実流の暗闇に螺旋を描いて下っていく。触れ合っているうちに感覚が深くなり、硬かった実流の身体がやわらかくほどけていく。
「こんな恥ずかしい格好、初めてする」
足を割り開かれて、実流が自分の頬に両手を当てる。
「馬鹿だな、お前。赤ん坊のときにしてただろう」
「そんな昔のことなんか覚えてないよ!」
怒っている恋人の萌した中心に、真理は指を絡めて唇を寄せた。
「やぁっ……あ……ッ、ああっ」
中心をくわえて頭を動かす。
「あまり、強くしないで……出るから」
「出しちまえ」
根元を扱いて激しく吸い上げる。実流は高い声をあげて達した。真理が喉にからみつく苦い液体を飲み干すと、実流は信じがたいものを見るような目つきで真理を見上げた。
「セックスって、生々しいな」
「今からもっと生々しいことをするぞ」
真理が両腕で実流の膝を開くと、実流が拳で口元を覆って頬を真っ赤に染めた。
長い時間をかけて、真理は実流と身体を繋げた。実流も汗だくになりながら、真理の中心を呑み込んだ。
「痛いか?」
「痛くはない……けど、圧迫感がすごい。真理は?」
「すごく気持ちいい」
根元はきついのになかがやわらかい、実流の最奥に深く身体を沈める。下腹へ力を入れないと、すぐに達してしまいそうだ。もっと実流のなかにいたい。実流の熱を全身で感じていたい。
「やっ……ああッ、そこ、やだ……」
「ここか」
実流の身体がビクリと浮き上がる。実流の身体を掬い上げるように攻めると、実流の声が高くかすれた。
「ああっ、やぁ……ン、あ……」
激しく絞られるような感覚のあとで、実流が勃ち上がった屹立から白い液体を弾けさせる。下腹をビクビクと痙攣させて、鈴口から精液を滴らせる。
内部から中心を抜いた真理に、実流がふしぎそうに聞いた。
「真理は? ……いいの……?」
「イったあとで俺をいかせるのは辛いだろ」
実流が身体を起こすと、真理の猛った中心からゴムを外した。真理の中心に顔を寄せてキスを落とす。
「下手だけど、口でするよ」
鈴口をくわえる実流の髪を、真理はそっと手で梳いた。
真理が欲望を吐き出したあと、ふたりは汗で冷えた身体を布団へ潜り込ませた。
「まだ真理がなかにいるような気がする」
ぼんやりとした目で呟くと、実流は気まずそうに口元を手で覆った。
「女の子の台詞だよな、これ……」
自分の言葉に照れている恋人の肩を、真理は苦笑しながら引き寄せた。
「寒くないか?」
「大丈夫。真理の身体があったかいから」
顔に冷たい空気を感じる。実流を冷気に晒したくない。隙間なく腕を絡ませて抱きしめる。実流の額に唇を落とすと、実流は真理の頬を撫でた。
「ずっと雨が降っていたね」
実流の声の振動が身体へ響く。
「こうしていると、世界にふたりしかいないみたいだね」
実流は夢見るような淡い目を真理に向けていた。真理は実流のやわらかい笑い声に誘われて、吐息を繋げてみたくなる。
実流の唇に触れると、胸に甘やかな疼きが込み上げた。
部屋に騒々しい雨音とひそやかな唇の水音が落ちる。目がうるみ、水没した世界の輪郭が揺れる。真理は実流の熱い指に指を絡めた。凍えた雨雲を飛び越えて、自分は今実流の暗闇の底にいる。
「いつか大阪に行かないか」
真理は濡れた実流の口元を指で拭った。
「俺といっしょに暮らさないか」
「……いつか、そうしよう」
実流は真理の手に唇を寄せた。猫のように指先へ頬を擦りつける。
「真理の手はいつも優しいね」
淡く染まった実流の頬を、真理は微笑みながらそっと撫でた。
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