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サウンド・オブ・サイレンス 8

 のぞみの最終電車に乗るために、真理は実流とともに夜の東京駅へ向かった。  ホームまで見送るといって、実流は入場券を買った。新幹線のホームは混雑していて、雨の名残が新幹線の架線から滴っている。 「こんなに人がいると思わなかったよ」  実流がホームを見回して感心する。 「さっきまではふたりしかいなかったのに」  真理は実流を引き寄せたい衝動を抑えた。心の一部が実流のなかへ取り残されたまま、分離できずにいる。 「今週の土曜日、また東京へ来るよ。予定を空けておいてくれ」 「わかった」  実流は真理の耳元へ唇を寄せると、真理にしか聞こえない声で囁いた。 「今度はもっときちんとしたい」  実流が背中を向ける。全身に熱が篭もる。実流に煽られて一週間も待てそうにない。  新幹線のドアが開き、並んでいた乗客が車内へ吸い込まれていく。ふたりは互いに違う方向を向きながら、駅のホームに立っている。  新幹線の発車を告げるアナウンスが響いた。 「じゃあ、また」  真理の言葉に、実流が小さく手を振った。  新幹線の乗車口で振り返る。  考えるよりも先に身体が動いていた。  発車のベルが鳴り響くホームへ出ると、実流を強引に新幹線へ連れ込んだ。真理は実流をチェスターコートのなかへ抱え込むと新幹線の扉が閉まるのを待った。  新幹線が発車する。ホームが去っていくようすを、実流は茫然と見送っている。 「明日バイトなのに……職場になんて言えばいいんだよ」 「じいちゃんでも殺しとけ」 「ひどい」  コートのなかで恨みがましげな目つきをする実流に、真理は軽く吹き出した。 「大丈夫だよ。品川で降りられる」  実流が口を尖らせて安堵のため息をつく。 「大阪まで行くのかと焦ったよ」  ほんとうはこのまま、実流を大阪へ連れて帰りたかった。熱い身体を抱きしめて、実流の顔をコートで隠す。 「鎌田に歌を作ろうと思うんだ」  実流が微笑みながら真理を見上げた。 「今だったら、恋愛の歌が作れると思うんだ」  君がいるから。シーグラスの声で呟いて頬を染める。 「愛してるって言うの、忘れてた」  実流の頬へ言葉を触れさせると、息を吐いた唇がやわらかくほころんだ。 「僕も」  品川駅へ到着するまで、チェスターコートの陰でキスをして過ごした。

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