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マイ・アイディアル 3
「真理……もう、や……っ」
ベッドのなかで真理に揺さぶられて、舌がもつれる。
互いに二度達したあとだった。真理は熱を吐き出せるようだが、自分は限界だ。真理が行為の後始末をしているようすを、ぼんやりと眺める。
「前にまだ俺が自分のなかにいるみたいだって、実流が言ってたけど」
真理が実流のそばに横たわって、実流の頬に貼りついた髪を掻き上げる。
「まだ俺も実流のなかにいるみたいだよ。実流に締められた感触が残ってる」
ここに、と真理が自分の萎えかけた中心を指さす。
「痛い?」
「痛くはない。でも、ときどき思い出してムラッとする」
真理の笑みがやわらかい。真理がたくさん甘やかしてくれた跡に気づいて胸を疼かせる。真理に抱かれていると、なめらかな温かい水に浮いているような気分になる。
「鎌田に俺たちのこと、言わなくてごめんね」
真理が実流の頬を撫でた。頬を真理の指に擦りつける。真理の手が好きだ。いつも自分をいたわるように愛してくれる。
「人前に出る職業だから、慎重でいたほうがいいよ。実流はもともと繊細だし」
ほんとうは、誰かに真理のことを伝えたいという思いもあるのだ。
こんなに優しい、素敵な人が自分の恋人なのだと、全世界に告げてしまいたい衝動もあるのだ。
人がラブソングを歌う理由を、実流は初めて理解した。
自分が全身で好きだと訴えれば、真理は一生自分のものでいてくれるだろうか。
「ほんとうは真理が僕の恋人だって言いたい。拡声器で」
「拡声器って古いな」
真理は口元を覆って苦笑している。
「もうすこし僕がしっかりしたら、鎌田には伝えたい……馬鹿にする人じゃないと思うから」
「もうすこし俺たちが落ち着いたら、そうしようか」
「真理は僕でよかったの? 一ヶ月しか付き合っていないけど」
「俺はあまり人を好きにならないからね」
意外な答えに目を見張る。
「だから一度人を好きになると、ずっと好きでいられるんだよ」
真理の言葉は、実流の腹に重たく落ちた。
今まで疑問に思っていたことを聞いてみる。
「どうして僕を好きになったの?」
真理は眩しいものを見るような目つきで目を細めた。
「実流が一途だったからだな」
鎌田に寄せていた感情の狡さを、自分は知っている。半分は憧れ、半分は同性に恋をするのが怖くて自分から諦めていた、そんな感情だ。
自分は一途なのではない。以前真理が言ったとおり、弱いだけなのだ。
しかしなぜ、真理は自分を好きになってくれたのだろう――
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