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第2話
厚手のカーテンを閉め、ウォールハンガーに掛かった制服に着替える。
退院後。アゲハの住むこのマンションに身を移し、住所変更等の手続き、学区内の中学校への転入……と、それなりに慌ただしい日々を過ごしていたけど。二週間もすれば、何となく今の生活に順応してきていた。
数ヶ月前に比べたら、驚くほど平穏な毎日。だけどきっと、これが世間一般でいう平凡で退屈な日々なんだろう。
竜一やアゲハが敷いてくれた、人生の安全なレール。だからこそ、今の生活を壊したくはない。
……そう、思ってはいるけど。少しだけ我が儘を言わせて貰えば、例え危険と隣り合わせだったとしても──竜一の傍にいたかった。
カーテンを開け、柔らかながら眩い朝日を部屋に取り込む。射し込んだ光の先にある、腰ほどの高さの白いチェスト。一番下の引き出しを開け、奥に潜んでいたジュエリーボックスを引っ張り出す。
パカッと蓋を開ければ──そこには竜一とお揃いの、十字架のピアス。
『これを付けて、いつも竜一を感じてたい。会えない日も、竜一が傍にいるんだって思えたら……きっと、淋しくない』──あんな事、言わなければ良かった。
病院のベッドで目覚めた時、竜一にそう言ってしまった事が今でも悔やまれる。
でも、もし言わなかったとしても。きっと結果は変わらなかったんだろう。
『なら、大丈夫だな』──竜一から返ってきたのは、何処か突き放すような言葉だった。
半年以上もの間、囚われの身だった僕は、解放されたら元の生活に戻れると思っていた。
これからは、竜一と一緒に生きていけるんだと……
『嫌だろうけど……これからは、俺のいる所で会って貰う。その方が、何とでも言い訳が立つからね』──それを邪魔したのが、若葉。
“兄弟仲良く”する事を強く望み、それを糧に今でも生きているらしい。
「……」
……アゲハが一緒なら……会える、んだよね……?
俄に信じられないその言葉を飲み込み、そっと蓋を閉じる。
このピアスが返ってきたあの日以降、竜一にはまだ会えていない。退院が決まった日に一度、アゲハの携帯で少しだけ言葉を交わしただけ。
「……」
考えてみれば、忙しい竜一とアゲハの都合が合う日なんてあるんだろうか。
結局、半グレ集団に囚われていた頃と、あまり変わらないんじゃないか。
そっと目を瞑り、両手で箱を包み込みながら、祈るように胸の前に当てる。
『似合わねぇな』──拙いながら、竜一と過ごし始めた去年の春。
ピアスを僕の耳朶の前にかざした竜一が、ニヒルな笑顔を浮かべる。その逞しい腕に抱き寄せられ、甘えるように寄り掛かった時の温もりが思い出され、空っぽの身体が切なく震えた。
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