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第4話
「……あ、ごめん。突然話し掛けちゃって」
僕の視線に気付き、男が机から手を離す。
「初めまして、だよね」
「……」
「僕は、清井奏仁 。これから宜しくね」
僕を見据えながら微笑む彼は、爽やかで。その瞳は、窓の外に見える冴え渡った青空のように澄み切っていた。
「奏仁、久し振りじゃん!」
「風邪の方は、もう大丈夫なの?」
ずっと空席だった場所にその主である清井が現れた途端、わらわらとクラスメイト達が集まって辺りが騒がしくなる。
「うん。もうすっかり元気になったよ」
清井が僕に背を向け、引いた椅子に座る。
「そういえば、オーディションは?!」
「あ、それな」
「……で、どうだったの?」
間髪入れず、女子二人がずいっと前に乗り出し、清井に詰め寄る。
「……さぁ、どうかな」
「奏仁くんなら、きっと大丈夫だよ!」
「そうだよ! だって、あの森崎悠仁から、直々にオファーされた事があるんだから!」
「──っ、」
……森崎……悠仁……?
胸の奥に嫌悪感が広がっていく。
大物専用の会員制デリバリーヘルス『J- Angel』の創設者、凌の部下であるシンの知り合いで、アゲハの代役として僕をMVに出演させようと、しつこく迫ってきた男──
事故とはいえ、待ち合わせの純喫茶の店内で床に押し倒された事や、森崎主催のパーティー会場で肩を組まれ、酒を強要された事が思い出される。
「うん。……でも、それはチャンスを貰っただけで。この先は、僕の実力次第だから」
凪のように穏やかな声で清井が淡々と答えれば、詰め寄っていた女子二人が、机に両手を付いて更に詰め寄る。
「そんな事ないよ! だって、めざめるテレビに清井くんが出たMVが紹介されて、話題になったじゃん!」
「………話題になったのは、僕じゃないよ。ヒロイン役の──」
「だとしても! 清井くんだって、紹介されてたじゃん」
「……」
清井の謙虚すぎる態度に、息巻きながら熱弁する女子二人が涙声に変わる。
周囲に集まっていた他のクラスメイト達は、何となく重くなってしまった空気に居心地の悪さを見せ始めていた。
「……あっ、」
少し離れた所にいた男子が、閃いたようにぽんと手を打つ。
「そう言えば。MVの最後、亜未ちゃんとのキスシーンがあったじゃん」
「あー、あの触れる寸前で、映像切れるやつ?」
「寸止めマジックな」
「マジ最高だよな、あれ」
「そーそー! あれさ、撮影ではマジでしたの?」
その話題に変わった途端、水を得た魚の如く集まっていた男子が騒ぎ始める。
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