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第6話
それまでとは違う……一瞬でくすむ爽やかな双眸。
窓から溢れる朝陽に溶け込んだ髪色とは対照的に、その瞳から光が失われ、何かを含んでいるように見えた。
「えっ。じゃあその代役が、奏仁?」
「───いや。僕は、そのまた代役だよ」
「……!」
僕を射抜く清井の視線。
その鋭い視線が、僕の精神をも貫く。
森崎悠仁、MV、アゲハの代役、代役の代役──身に覚えのある単語が次々飛び出し、まさかと思っていた懸念が現実を帯びていく。
直ぐに外される視線。
柔らかな笑顔を浮かべ、僕の机に片手を付いた男子に光を宿した爽やかな瞳を向ける。
……コイツ……
知っててわざと……僕に……
湧き上がる嫌悪感を抑えながら、再び頬杖をついて窓の外を眺める。
「……」
……別に、どうでもいい。
清井が僕をどう思おうが。
アゲハではなく僕の代役って所に、何か含むものがあったんだろうけど。周りの反応を伺いながら、僕がアゲハの実弟だと誰も知らないと確信した上で、僕にだけ解るよう釘を刺したんだろう。
今の地位を奪われない為に。
清井に向けられていたクラスメイトからの好意が、僕を通してアゲハへと向かわない為に。
「……」
……そんなの、僕だって御免だ。
前の学校の二の舞なんて、演じたくはない。
このまま穏便に過ごせればいい。……だから、僕の事はほっといてくれ。
「樫井さんの不祥事、あったじゃない? そのせいで、事件を連想してしまうからって……
一度全てを真っ新にして、全く違うコンセプトで撮る方向になったんだよ」
人当たりの良さそうな、柔らかな声。
「へぇ。それで亜未ちゃんかぁ……」
「良かったな、清井。相手が可愛い亜未ちゃんに代わって。仕事とはいえ、野郎との絡みってのは……なぁ」
「だよなー」
さっきまでのテンションを抑え、ニヤついた声で清井を慰める男子達。
「はは。……でも僕は、実力派の樫井さんとやりたかったなって、今でも思ってるよ」
「はぁ?! 何だそれ」
「マジかよ」
「……全く。謙虚なのか、野心家なのか。わっかんねぇ奴だよなぁ、清井って──」
休み時間になり、見学届を握り締めて職員室のドアを開ける。
「……豊橋先生」
白地に差し色の赤が入ったウインドブレーカーを羽織った先生の傍まで行き、背後からそっと声を掛ける。
「おぅ、工藤か」
椅子の背もたれに肘を掛け、振り返った先生が、僕の顔を見るなり暑苦しい笑顔を見せる。
「なんだ、また見学か?」
喉に異物でも詰まったかのような濁声でそう言うと、手にしていた見学届を雑に奪い取る。
「入院してたってぇいっても、持病がある訳じゃねえんだろ? 少しは身体を動かさねぇと、体力付かねぇぞ?」
「……でも、持久走は……」
「ああ……それなら安心しろ。特別に工藤用のメニューを考えてやる」
「……」
「ガハハ、大丈夫だ。リハビリするつもりで俺の授業に臨めよ!」
パンッ、と高笑いをしながら先生が僕の腰辺りを叩く。
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