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第12話

昔ながらの商店街。こじんまりとしたスーパー。その入り口には、所狭しと積み上げられた数々の段ボール商品。“期間限定”“イチオシ”と書かれたポップ札。 カートを押しながら中に入り、狭い通路を進む。 ざわざわ、ざわざわ…… 地元の主婦だろうか。青果コーナーの棚に陳列された“目玉商品”に群がる、年配の女性達。そのせいで、通行の妨げになっていた。 「ちょっと、すみません」 後から店に入ってきた女性が、急ぎ足で僕を追い越していく。 「……すみません」 カートを持つアゲハの前に出た女性は、目の前の光景に一瞬怯む。が、持っていたトートバッグとカゴを持ち上げ、更に狭くなってしまった隙間をすり抜けようとする。 ドン…… 主婦集団の中から大きく飛び出す買い物カゴ。それが容赦なく、女性の身体に当たる。 しかし、目玉商品に無我夢中の主婦達には、そんなことにも気付いていない。 「……」 気を付けなければ、嫌な思いをさせてしまう。 気付かぬ内に、誰かを傷つけてしまう。 例えそれが、些細な出来事だったとしても…… もし、あのまま入院生活を送っていたら。 蕾と一緒に、あの箱庭で暮らしていたとしたら…… もし……もし…… 「……今日、なに食べようか」 振り返ったアゲハが、僕に話し掛ける。 穏やかな声。柔らかな微笑み。 澄んだ瞳から溢れる、眩い程の光。 その瞬間──アゲハから滲み出る優しいオーラが、僕の周りに纏う闇を絡め取っていく。 「……」 その眩しすぎる存在から目を逸らし、顔を伏せる。 こんな時でも……アゲハはアゲハなんだな…… 「行こうか」 僕の返事を待たず、カートを押して歩き出すアゲハ。ハッとして視線を上げれば、それまで目玉商品に夢中だった数人の主婦が、アゲハの存在に気付いて避ける。 「……」 心なしか。その中の一人が、アゲハの横顔をじっと見つめているような気がした。 「……ねぇ、さくら」 夕食中。ダイニングテーブルに相向かいに座るアゲハが、意を決したように口を開く。 「食事をしながらでいいんだけど……ちょっと、話をしないか」 「……」 カチャン。 チキンクリームにスプーンを入れたまま手を離し、深皿の縁に柄を掛ける。 視線を上げれば、シチュー皿の奥にサラダボウルを置いたアゲハと視線が合う。 「さくらの、本当の気持ちが知りたいんだ」 「……」 何となく、胸がざわざわする。 いつもなら、一線を引いた向こう側から無難な話題を振ってくるだけなのに。 「もう、気付いてるよね。お互い遠慮し合ってて、言いたいことも言えない状態だって」 「……」 「今まで、色んな蟠りがあったから、直ぐに打ち解けられるとは思ってないけど。……でも俺は、もう一度さくらと仲良くなりたいと思ってる」 「……」 それは、若葉のいう“兄弟仲良く”なりたいって事──?

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