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第13話
『好きだよ』『こうして抱きたいと思う程……ずっと前から……』
──脳裏を過ったのは、僕を組み敷き、兄弟の一線を越えてしまった時に放たれた、アゲハの台詞。
あれは若葉を欺く為だったんだと思い直し、一度は飲み込んで、腹の中に収めたのに。あの時の感覚までもが蘇ってしまい、上手く気持ちが切り替えられない。
もし、竜一との間を引き裂くような事が無ければ……きっと信じていられた。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、命を張ってまで僕を助けてくれたアゲハを……表裏のある悪い人間だと思いたくない。
だけど、病院のベッドで意識を取り戻したばかりの僕に、容赦なく言い放った台詞は──“兄弟仲良く”を実現すべく、若葉の思惑を利用し、僕をコントロールしようとしてるとしか思えなかった。
あの時から感じている、黒くて醜い感情。なんとか収めようとしていたそれが、どろどろと胸中に溢れ、渦巻く。
「だから、思ってる事はちゃんと話して欲しい」
アゲハの真剣な声。
俯いたまま、テーブルの下にある手をキュッと握り締める。
思ってる事──そんなの、決まってる。
僕は、竜一のオンナだ。
アゲハとどうこうなるつもりなんてない。
だから約束通り、竜一に逢わせてよ。
「………アゲハは、僕のこと……どう思ってるの?」
静かに。でもハッキリと口にする。
爆発してしまいそうになるこの感情を、何とか抑えながら。
返ってくる答えによっては、今すぐここを出て行く。
アゲハの思い通りにはさせない。
この平穏な日常が壊れたって構わない──アゲハとの関係を断ち切って、裏社会に生きる竜一を探す。
例えその行為が危険だったとしても、心まで奪われるのは御免だ。
「可愛い弟。……それ以上でも、それ以下でもないよ」
落ち着き払った柔らかな声。
聖人君子のような微笑み。
そこに嘘偽りなどはなく、秘めた悪意なども感じられない。
「……」
そっか……
そう……だよね。
張り詰めていた心が、次第に緩んでいく。と同時に薄れていく、黒い感情。
疑心暗鬼に囚われすぎていた事に気付かされ、毛恥ずかしくて頬が熱くなる。
これ以上、アゲハを疑っちゃ駄目だ。
兄弟で“愛し合う”なんて……そんな馬鹿げた事、常人なら思う筈がない。
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