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第17話

見学届を持って、廊下に出る。 パタンとドアを閉めるや否や、教室内に残っている女子達がざわめき、一層大きな声で話し出す。 「………さっきの、見たぁ?」 「見た見た!」 「清井くん、可哀相」 「まさか、拒否られるとは思わなかったよねぇ……」 「……」 聞き耳を立てるつもりなんてなかった。……のに。つい足が止まり、根が生えてしまう。 「別に悪い事してないのに、清井くんの方が謝ってたじゃん!」 「だよねー」 「ホント優しいよねぇ」 「っていうか、工藤くんてさぁ──」 キュッと口を引き結んだ後、ドアから離れて廊下を歩く。 「……」 ……別に、どうだっていい。 あの人達が僕をどう思おうが、僕には関係ない。自分の信念を曲げてまで、清井のいいなりになるつもりはないから。 階段を下り、静寂を保つ玄関前を通る。と、移動教室からの帰りだろうか。教科書と筆記用具を胸に抱えた集団が前からやってきて、愉しげに談笑しながら僕の横を通り過ぎていく。 「……」 きっと、クラス仲が良いんだろう。あぶれているような人は、一人も見当たらない。 その点、僕は異物だ。 何処にいても、混じる事のできない異物。 転校生は、最初の挨拶が肝心だなんて言うけれど。多分、何処かで失敗でもしたんだろう。 思い返してみれば、転校生に対してよくある行為──周りを囲っての質問攻めや、学級委員による学校案内等はなかった。 何となく感じたのは、仲の良い者同士が集まった、小さなグループの集合体。仲間内だけで盛り上がり、他のグループとは殆ど交流を持たない。 何処となく散けていて、クラス一丸とは無縁の纏まりのない印象。 それが、清井が現れた途端──クラスの雰囲気が明らかに変わった。 例えるなら、混沌とした宇宙に突如現れた『太陽』。或いは、輝きを増した『北極星』。その光を中心に、みんなが一斉に同じ方向へと集まっていく。 「……」 もしかしたら、アゲハもそうだったのかもしれない。 いや……きっとそれ以上だったと思う。 天性の魅力は、アゲハの意思に関係なく広範囲に放たれ、他校の生徒や女教師をも惹きつけて止まなかった。 そんなアゲハに少しでも近付こうと、目の前にいる邪魔な人達を蹴落とし、弟の僕をも踏み台にするアゲハ信者達。 執念深い心。見苦しい醜態。其れ等をアゲハは、どう感じていたのかは解らないけど…… 恐らく清井は、それすらも嬉しく感じ……優越感に浸りながら心の中でほくそ笑んでいるのかもしれない。 「──!」 優越感──その単語に、何か引っ掛かるものを感じる。 憶測で物事を捉えちゃいけないのは、解ってる。 でも……そう思わずにはいられない。 僕の体操服を盗んだのは──清井、なんじゃないかって。

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