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第24話

「………うん」 僕を捉えたアゲハの瞳が、僅かに揺れながら再び画面に向けられる。 「……」 どうして──口を開きかけて、止める。 これ以上、触れてはいけないような気がして。 爽やかな笑顔を浮かべ、此方に向かって話し掛けている画面のアゲハ。視界に入ったそれからも背け、テーブルに置かれた機材に視線を落ち着かせる。 「……確かに。このせいで、俳優としての仕事は減ってしまったよ。でも、だからって……無理に隠したりはしたくないんだ」 「……」 「だって、これは……俺の誇りだから」 そう言って、アゲハが自身の首筋にそっと触れる。その様子を間接視野に入れた後、再び目を逸らす。 「さくら」 僕を呼ぶ、柔らかな声。 瞬きをひとつして、怖ず怖ずとアゲハの方へと黒眼を動かす。 「どうしてあの時、俺が若葉のアパートにいたのか。若葉の言いなりになったのか。……まだ、その経緯や理由を話してなかったよね」 穏やかな声を発しながら、口角を僅かに持ち上げ寂しそうに笑う。 「……」 アゲハの手中にある動画再生が終わり、しん…と静まり返る空間。 僅かに残る緊張感が、僕の心臓を速める。 「さくら(義子)を引き取りたいと、突然現れた若葉の男──美沢大翔の話は、覚えてる?」 携帯に目を落とし、画面を閉じながらアゲハが本題に入る。 「……」 うん…… 若葉に脅迫されて、“兄弟仲良く”していた時に教えてくれた話だよね。 それは──僕が中学生になったばかりの、桜が舞い散る頃。 アゲハの友人である竜一に、初めてを奪われた。 兄の身代わりにされたと思い、痛くて痛くて……苦しかったけど。背後から抱き締められた時に感じる温かな感覚だけは、僕のものでありたかった。 アゲハの傷つく顔を見てみたい──いつしか心に芽生えいた、負の感情。その思惑にも気付かず、帰宅したアゲハが現場を目撃。 目的は果たせたものの、血相変えて竜一を追い掛けていくアゲハを目の当たりにし、余計に胸が苦しくなったのを覚えてる。 だけど、その後どうなったのか──若葉のアパートで再会し、アゲハの口から語られるまで何も知らなかった。 「その美沢さんから守るため、さくらの価値と同等の金額を上納する約束を交わした。でも──」 「……」 「ホストになれば稼げる。……そんな安直な考えを、美沢さんは見抜いていたのかもしれない」 瞬きをし、寂しそうに口角を僅かに持ち上げながら直ぐ隣にいる僕に視線を移す。 「俺が売られた先は……酷いボッタクリの店だった」 ……え……

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