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第25話

──バリンッ、 突然鳴り響く、床に叩きつけられるガラス音。ピンと張り詰める空気。 店内にいるプレイヤーと複数の姫が、びくんと身体を震わせる。 『今からぁ、ロマネタイムのぉ~、始まりぃ、始まりぃ~!』 くすんだ短い金髪。日サロで焼いた黒い肌。鍛え上げられた身体を強調した軽装。ドス黒いオーラを放ちながらホールを練り歩く経営者(オーナー)。その直ぐ後ろを付いて歩く店長が、各テーブルにロマネコンティを配っていく。 「一本2000万。勝手に押し付けられた姫達は、酷く脅えていたよ。 勿論、プレイヤーもね。……もし姫が飛んだら、全てを被る事になるから」 「……」 それは、悪質な類のぼったくりバー。 プレイヤー目当てに来店した姫達は、店内で暴言を吐く強面経営者に脅えながら高額ボトルを次々と入れていく。 これ以上引っ張れないと踏んだ容姿の良い姫には、馴染みのキャバクラに堕としたり、ソープに沈めながら自身の愛人に仕立て上げたりしていた。 借金返済の為に働き、働く度に借金が(かさ)む。こうして経営者の飼い殺しと化したプレイヤーは、日に日に精神が蝕んでいき……ホストとしてのオーラは勿論、人としての生気も失っていく。 ───ガッ、 『オラァ! てめぇ、ふざけんじゃねーぞ!』 唐突に。店長の後頭部を鷲掴み、勢いよく大理石のテーブルの角に顔面を叩きつける。 ぽたぽたぽたぽた…… 床に滴る鮮血。鼻と口を抑え、くの字に腰を曲げながら床に伏し、苦痛に耐える。 『……あーあ、汚れちまったじゃねーか』 先の尖った革靴で店長の顎を上に向けると、経営者が可笑しそうに口元を歪める。 『綺麗に床、舐めとけよ』 『……は、ッ″──!』 ガッッ、、、── 経営者の蹴り上げた靴先が──手を退け、返事をしようとした店長の咥内に勢いよく突っ込まれる。 「……結構ヤバめの人でさ。人の尊厳を平気で踏み躙るような人だった」 「……」 「精神的なものもあったんだろうね。 店長の頭は、所々禿げができてて。顔も変形して。歯も折られて。……前の店で一億円プレイヤーだったとは思えない程、酷い容姿をしてた」 「……」 ……そん、な…… 想像しただけで、身体が震える。 胸が、締め付けられる。 アゲハがホストになったという噂を聞いた時、僕は勝手に……本当に勝手に、煌びやかで華やかな夜の世界で、美しく優雅に羽ばたいているんだとばかり思ってた。 誰からも愛されるアゲハは、僕のような人生なんて、無縁だと…… 「俺はまだ、夜職に染まっていない新人で。顔が割れて無かったから、上手く客を引っ張れると思ったんだろう。暴力的な事はまだされてはなかったけど、いつ豹変してターゲットにされるか……毎日怖かったよ」

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