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第21話
*
「……では、よろしくお願いします」
保健室のベッドに横になると、仕切りカーテンの向こうから保険医に声を掛ける棚村の声が聞こえた。
パタン、と閉まるドア。
静まり返る空間。
コツ、コツ、コツ……
その空気を切り裂くように響く、ヒール音。次いで椅子を引く音。座って机に向かう音。
「……」
再び訪れる、耳が痛くなるような静寂。
白い天井をぼんやりと眺めながら、ゆっくりと瞬きをする。
もう一度瞼を閉じると、その裏に映し出されたのは──体育館での出来事。
清井の肩越しに見える女子達がざわめき、此方に視線を向けていたのは……清井が僕に話し掛けていたからだけじゃない。授業を放棄してまで、棚村が見学者の僕に駆け寄ったからだ。
その棚村が、僕の身体を抱えて体育館を後にする姿は、きっと滑稽だったに違いない。体育館を出た辺りで、堪えかねたような女子のバカ笑いが聞こえた。
……いや、その前からアイツらは、ずっと心の中で嘲笑っていたんだ。
授業が始まる前──体育館に入ってきた僕の姿を見た一部の女子達が、顔をつき合わせクスクスと笑い合っていた。清井の体操着を断ってまで、棚村のジャージを羽織る僕が滑稽に映ったんだろう。
「……」
別に……慣れてる。
前の学校でもそうだったから。
僕がどう振る舞おうが、どう感じようが、アイツらには関係ない。空気が読めず、同調圧力の効かない役立たず だと認識された時点で、容易く排除対象にされてしまう。
清井の好意を無下にした──たった、それだけで。
清井自身も、きっとそれに気付いている筈。
なのに。追い打ちを掛けるように話し掛けてくるのは──それ程までに、周囲の好感度を上げたかっただけなのかもしれない。
瞼を柔く持ち上げ、もぞもぞしながら寝返りを打つ。
上掛けを耳が掛かるほどに引っ張り上げ、布団の中の心地良い温かさに身を委ねながら、赤子のように身体を丸める。
「……」
親切なフリをして近付いてくる奴なら、もう何人も知ってる。その度に手のひらを返され、傷ついてきた。
だから、距離を取って無害な存在でいようとしているのに……
絶望にも似た感情を抱え、もう一度瞼を閉じる。
──ああ。
それにしても……滑稽だったな。
清井の、あの顔──
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