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第19話

──ダンッ、ダンッ、 キュキュ、………キュッ、…… 床に叩きつけるボールとシューズの摩擦音が、不規則に鳴り響く体育館内。その端っこに膝を立てて座り、熱い対戦を繰り広げるバスケの試合をぼんやりと眺める。 「……」 氷のように冷たい床。お尻から伝わる冷たさも相まって、震えが止まらない。擦り合わせた両手を開き、湿気を含んだ温かな息を吐く。 ピンと立てたジャージの襟。その内側から発せられる、脂汗と体臭の混ざった臭い。 不快だ。 こんな事なら……さっさと早退すればよかった。 ピッ、 笛の音が短く鳴り、試合が一時中断する。審判の棚村が口に笛を咥えたままボールを拾い、コート外に出た選手に投げ渡す。 その様子を遠くでぼんやりと眺めながら、腕を交差させ膝を抱える。 「……!」 と、棚村の顔が此方を向く。 その瞬間、目が合ったような気がして。逃れるように顔を伏せる。 脂汗に混じって鼻に付く、棚村の体臭。背後から抱き締められているかのようで……何とも気持ち悪い。 「………大丈夫?」 視界の端に現れる、人影と靴先。 ゆっくりと視線を上げれば、そこにいたのは──爽やかな雰囲気を醸し出す、清井奏仁。 「見学だと、余計に寒いよね」 「……」 「何だか顔色も、あまり良くないみたいだし。……一緒に、保健室に行こうか」 光を取り込んで輝く髪。 その毛先をさらりと揺らし、膝に手を付いて僕の顔を覗き込んだ清井が腰を落とす。 正義感を含んだ優等生らしい笑顔。光り輝く場所から差し出される手。僕を見つめるその視線は、あの日のアゲハを彷彿とさせ……ジャージの袖を掴む手に、力が籠もる。 「……」 ……なんで…… なんで拒絶したのに、また僕に関わろうとするんだ。 清井の肩越しに見える、横並びに座って試合を応援している女子達。此方の様子に気付いた数人が、チラチラと見ているのが解った。 「………どうした?!」 ハッとして視線を上げれば、真剣な顔付きをした棚村が駆け寄ってきていた。 それを見た清井がスッと立ち上がり、棚村の方へと身体を向ける。 「工藤くんの具合が良くないみたいなので、保健室に………」 「───なに、本当か?!」 清井の言葉を遮り、その身体を押しのけ、僕の前に立ちはだかる。

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