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第46話

「……す、すまん」 我に返ったんだろうか。眼を左右に揺らしながら上体を起こした先生が、こめかみ辺りに片手を宛がう。 「どうか、してたな。……この所、工藤の事ばかり考えてしまって」 「……」 呟きにも似た先生の言葉を受け、冷静さを取り戻したんだと確信する。と同時に、自分で何とか回避できた事に、ホッと溜息をつく。 「あの日から、ずっと気になって仕方ないんだ──」 こめかみを押さえたまま、二つの黒眼が再び僕に焦点を合わせる。 「もし必要なら、先生のジャージをいつでも貸してやる。気分が悪くなったら、先生が保健室に運んでやる。 もしクラスで孤立してるのなら、先生が話し相手になる。染矢先生にしつこく迫られてるなら、俺が守ってやる。 ……何でもいい。何でもだ!」 「……」 「だから、俺に……相談してくれないか?」 浅くて速い呼吸を何度も繰り返しながら、切羽詰まったような瞳を向ける。 「……」 なに、言ってるんだ。 染矢先生に、しつこく迫られて……? 何か勘違いをしているらしい先生を身構えたまま見つめ返せば、合わせた先生の眼の色が次第に濁っていく。 「なぁ、工藤……悪いようにはしないから、少しだけでいいんだ。 ほんの、少しだけ。その甘っとろい匂いを……嗅がせてくれないか」 「……え……」 思いもよらない台詞に、ゾクッと背筋に悪寒が走る。 心臓を容赦なく握り潰される恐怖。自身を抱くようにして身を縮めると、その反応がそそったんだろう。にたりと顔を歪ませた先生が、制御不能な機械のように再び僕に迫る。 「……ゃ、」 強い力で抱き着き、僕にのし掛かりながら首筋に顔を埋める棚村先生。 擦りつける鼻先。食む口唇。嗅ぐだけだと言いながらも興奮し、そこに熱い舌が這われ、ねっとりとした感触の跡を残す。 「ゃ、やぁっ!」 ゾクゾクと粟立ち、嫌悪と快感が同時に駆け抜けていく。 「……あぁ″っ!」 身を捩り、おかしな感覚に必死に抗う。 力いっぱい押し返そうとするものの、ガッチリとした体育教師の身体からは逃れられそうもなくて。粘液で湿った肌に、先生の歯が柔く立てられた──その時だった。 「……なに、してるんですか」

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