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第47話

カーテン越しに聞こえる、至極冷徹な声。薄らと映る人影。 棚村の身体が大きく跳ね上がり、弾かれたように手を離して振り返る。 「棚村先生、あなた……いま授業中ですよ。うちの工藤に、一体何しようとしてたんですか?」 「……あ、いや……その」 「警告した筈ですよ。仕事を疎かにしてはいけないって」 「……」 コツ…… カーテンから現れたのは、案の定──染矢先生。眼鏡の奥に潜む眼が、鋭く棚村先生を射抜く。 「ほら、さっさと授業に戻って下さい。怪我人がいないのに、グラウンドに生徒を放置しているなんて──前代未聞ですよ」 「……っ、」 はぁはぁと肩で息をする棚村が、逃げるように染矢の横を通り過ぎていく。その様子を横目で見送った染矢が、僕に視線を移しゆっくりと近付く。 「何があったのかは知らないが……今回の件、一旦私に預けてくれないか。君も、事を大きくしたくはないだろう?」 見下ろす眼が、ナイフの刃先の如く冷たく光る。 「……」 確かに。 事を大きくしたくはない。 でも──なんか、嫌だ。 「それとも。証拠もないのに騒ぎ立てて、恥を晒すつもりかな?」 反発心を読み取られたのだろうか。 胃から迫り上がってくる苦水を、何とか飲み込む。 ……脅しだ。 預かるなんて言いながら、結局なにも無かった事にするに違いない。 でも、なんで……棚村先生の悪行を、染矢先生が庇う必要があるんだろう。学校の秩序を乱したくないから? それとも。先生自身が、ゴタゴタに巻き込まれたくないから? 「……」 考えたって、解る筈がない。 別に、どうでもいい。 隠蔽されようがされまいが、どっちだって構わない。 どうせ僕の意思なんて関係なく、物事は動いてしまうんだから。……抗うだけ、無駄だ。 「はい……」 視線を伏せ、消え入る声で答える。 僕が、服従したと思ったんだろう。足元にある乱れた掛け布団の端を拾い上げ、小さく丸まっている僕にそっと掛ける。 「賢明な判断だ」 スッと寄せられた片手が、僕の頭を軽く撫でる。冷たい指先。まるで、手懐けようとする飼い犬のように。

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