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第48話 雲の切れ間
×××
「……」
いつの間に眠ってしまったんだろう。
片手を額にやれば、染矢先生に触れられた感触が蘇る。
あの後……どうなったんだっけ……
思い出そうとした途端、脳の奥にビリッとした痛みが走る。まるで微弱な電流を流されたような、痺れる衝撃。
カーテンの向こうに感じる、人の気配。微かに椅子の軋む音と穏やかな雰囲気から、保険医だと確信する。
休み時間なのだろう。ドア一枚を隔てた向こう側から、反響する生徒達の声が聞こえた。
コンコン……
ノックの後、ドアが開かれる。その途端、静寂を保っていた室内に賑やかな声が入り込む。
「……先生」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、背もたれの軋む不快な音と共に、キャスターが床を滑る音がした。恐らく保険医が、椅子に座ったまま振り返ったのだろう。
「工藤の給食、持ってきました」
「あら、ありがとう。でも……折角運んできて貰ったのに、ごめんね。まだ眠ってるみたいなのよ」
「……そうですか」
人当たりの良いこの声は、間違いない──清井だ。
「三時間目からずっと授業出てないですけど……工藤、何処か悪いんですか?」
「んー、そうね。熱はないんだけど、随分と青い顔をしてたから……きっと辛いんだと思うわ」
そう言った保険医の足音が近付き、影が差した間仕切りカーテンが優しく開かれる。
「……あら、起きてたのね」
僕と目が合うなり驚いた表情を見せた保険医が、すぐに笑顔を取り繕う。
「いま、清井くんが給食持ってきてくれたんだけど……どう? 食べられそう?」
そう言った保険医の脇越しに、持っていたトレイをテーブルに置く清井の姿が映る。
「……」
親切心からじゃないのは解ってる。保健委員だから仕方なく、なんだろう。
でも、本当にそれだけ?
給食の中に、不純物──人の食べ物では無い何かを、混ぜ込んでるんじゃないだろうか。そのチャンスなら、幾らでもあった筈……
「工藤、大丈夫か?」
僕の返事を待たず、清井がカーテン口まで近付く。相変わらずの爽やかな笑顔を浮かべて。
「もし大丈夫なら、主食のパンぐらいは食べなよ?」
「……」
ここで僕がいらないと拒絶したら、どうなるんだろう。清井の親切心を踏み躙ったとして、また悪者扱いされるんだろうか。体操着の時のように。
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