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第51話
「──!」
一歩前へ出た清井が、僕を庇うようにして立ち、男を警戒する。
「何で私がここにいるか……不思議な顔をしているね。取材対象の行動を把握するのは、プロの基本だよ──清井奏仁くん」
「……」
「この後、音楽雑誌のインタビューを控えているんだろ? 出演したMV映像が話題になって、メディアで取り上げられたというのに。駆け出し故に未だ電車移動とは、不用心だな」
身構える清井に動じる事無く、一歩、また一歩と男が距離を詰める。
「そのMV出演について、聞きたい事があったんだが……
まさか、君に出会すなんて思いもしなかったよ──工藤さくらくん」
ハンチング帽の奥に潜む眼が、清井から僕へと向けられる。獲物を捉えた捕食者の如く、鋭く光る双眸。
「まさか……二人が同じ学校の同級生だったとはね。偶然にしては面白い組み合わせだよ。
樫井秀孝事件の被害者──『A』と『E』くん」
──え……
いま、なんて……
心臓が、嫌な音を立てる。
ぐらりと視界が揺れ、立っていられない程の目眩に襲われる。
清井が、樫井秀孝の……被害者?
思い出されるのは──事件後の爪痕。僕が何処で何をしてようが、学校やらアパートやらに押しかけ、騒ぎ立てては周りに迷惑を掛けていたジャーナリスト達。
あの逃げ場のない、針のむしろにされた辛い経験を、清井もしていたんだろうか。
僕と同じように……樫井秀孝に騙され、思い通りにされたせいで。
「MVの事について、聞きたいんだろ。なら、工藤は関係ない」
「……フッ。関係なくはないが、まぁいいだろう。工藤さくらくんには、後日たっぷりと話を聞かせて貰う事にしよう」
交渉成立とばかりに、ジャーナリストの口元が歪む。
「では、本題だ。
なぜ君は、樫井秀孝の被害者であるにも関わらず、彼が出演する予定のMVのオーディションを受けた?」
「……」
「出演を条件に、既に樫井と枕したからか?」
「……違う」
「なら、プロデューサーの森崎に、口止めと称して懐柔でもされたか」
「……」
「まさか……“プロ根性”だなんていう精神論を、持ち出したりはしないよな?」
清井を捉えた男の眼が、心を見透かすかの如く鋭く射抜く。
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